言わずと知れたアメリカのケーブルTV、チャンネルMTV。だがもしかすると、いまだにこのチャンネルを「ミュージック・ビデオを延々流し続ける音楽専門チャンネル」だと思っている人は多いのではないだろうか？　いやまさに、私がそうだった。
　
現在MTVは、音楽に限らずドラマやバラエティなどさまざまなジャンルを放送している。なかでも若者向けの恋愛リアリティ・ショーは話題性も高く、少し前だとアジア系バイセクシャル・モデルのティラ・テキーラが新恋人を探す番組や、『テラスハウス』のお下品版と言えるパリピ男女の夏体験物語『ジャージー・ショア』などが爆発的な人気を博した。
　
アメリカのリアリティ・ショーの面白さはなんといっても、広大な地に住む多種多様な人物たちによる恥もいとわぬ過激さだろう。「えっ、そんなことTVで見せちゃっていいの？」と思うような醜態もどんどん晒すし、それで注目されてちゃっかり人気者になれたりもする。「ハート強えな！」とこぼしながら、そんなたくましさに励まされつつ楽しめるのがこれらリアリティ・ショーの良さだ。
　
MTVの目玉番組であり、Huluで配信中のバラエティ『キャットフィッシュ〜』の番組ホストであるニーヴも、ある意味そうした自らの恥をさらすところから人気者になったひとり。彼はある時、SNSを通じて理想の女性に出逢った。互いにメッセージを送り合うところから始まり徐々に恋愛へと発展していく、いわゆる「ネット恋愛」だ。だが実際に会ってみようとなった時、ニーヴの前に現れたのは、SNSに載っていた写真の女性とは全くの別人。つまり彼女は、TwitterやFacebookで他者の写真を拾い、架空の人物を作っていた「なりすまし」。彼女の背景や家族構成なども、全て自作自演だったのだ。
　

　
傷心のニーヴはそんな自身の経験をドキュメンタリー映画にしたところ、これが話題沸騰。つまりニーヴと同じような経験をしている人はそこら中にいるわけだ。そこで、今まさに疑惑の相手と恋愛中という人たちを対象に、ニーヴと相棒のカメラマン、マークの２人が、なりすましを暴くためアメリカ各地を駆け回る恋愛調査バラエティ『キャットフィッシュ〜』が誕生した。今や「Catfish＝なりすまし」という言葉がネット・スラングとして浸透している。
　

　
現在Huluではシーズン６まで配信されているが（編集部注：2020年10月時点でシーズン７まで配信中）、これほど回を重ねても次々と新手のキャットフィッシュたちが現れるから驚く。番組を通じてあらゆるケースを間近で見てきたニーヴ当人もまた騙されたりしている（！）。ビジュアルや性別を偽るのはもちろん、自身がキャットフィッシュされた被害者だと偽って番組に応募してくるキャットフィッシュもいて、こうなるともう何が何だか…。
　
しかしこの番組の本当の目的は、嘘つきたちの正体を暴いて糾弾することや、騙された人たちのマヌケな姿を晒そうというものではない。姿を見せない謎の人物に本気の恋をしてしまった人はなかなか前に進めずにいる。そんな彼／彼女たちが真実を知る手助けをし、時に慰め、時に励まして、次の恋へ進む足がかりを作る。また一方で、自らの容姿や性別にコンプレックスを持つがゆえに、自分がなりたい人物を創り上げてしまった「なりすまし」たちにさえ手をさしのべ、和解を仲介し、本来の自分をもっと愛するように諭したりもする。そう、これは恋し悩める者たちの救済バラエティなのだ。
　
偽善的？　それを言っちゃおしまいです。ニーヴやマークがそこそこイケメンの優しいお兄さんであるのもミソ。そんな彼らの救済措置こそが、被害者も加害者もついついTVに出てしまい、番組が６シーズンも続いている人気の秘訣なのでしょう。下世話な気持ちで観始めると案外身につまされるこの番組、身に覚えのある人もいるのでは？　日本全国のキャットフィッシュ予備軍＆釣られ予備軍たち、ぜひご試聴あれ。
　
　
※Huluにて『キャットフィッシュ ～リアルレポート ネット恋愛の落とし穴～』シーズン1〜7配信中
　
【視聴リンク】
https://www.hulu.jp/watch/60523805
　
※本レビューは雑誌「DVD&動画配信でーた」（KADOKAWA）2018年7月号の「厳選 動画配信の掘り出しモノ」コーナーに掲載された記事の再掲となります。
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