パブロ・エスコバル - 悪魔に守られた男

村山章の《今日のエスコバル》

「今日のエスコバル」第7回:エスコバル、嫉妬する。

悪名高き“史上最悪の麻薬王”パブロ・エスコバル。『ナルコス』『エスコバル/楽園の掟』など映像作品でもひっぱりだこだが、母国コロンビアがなんと全74話もあるドラマシリーズを作っていた! しかし1日1話ペースでふた月半、週一だったら1年半かかる大ボリュームを一体誰が観るのというのか? オレだ!総尺53時間9分コンプリートへのチャレンジを逐次報告します!

 2017.5.25

諸事情で中断しておりました、コロンビア製ドラマシリーズ「パブロ・エスコバル 悪魔に守られた男」(全74話)レポート、久方ぶりに再開いたします。
 
のっけから脱線すると、中断している間にドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ボーダーライン』を観た。アメリカとメキシコの国境周辺を舞台に米捜査チームと麻薬組織のルール無用の攻防を描いた問題作だが、何度か登場するのが「メデジン」という言葉。メデジンというのは当然コロンビア第二の都市であり、同時にパブロ・エスコバルが築いた麻薬シンジケート“メデジン・カルテル”のこと。『ボーダーライン』ではかつてメデジン・カルテル一強時代にCIAと裏で繋がっていて、麻薬戦争の戦力図をコントロールしていたことが示唆されるのだ。
 
これはあくまでもフィクションの上での陰謀論であって、真偽のほどはわからない。またメデジン・カルテルが現在まで存続しているという設定も都市伝説みたいなもので、エスコバルが1993年に殺害され、メデジン・カルテルは瓦解したというのが定説だ。とはいえ「メデジン」という言葉がこういう形で登場するのも、いまだに麻薬取引の世界においてパブロ・エスコバルの存在がいかに巨大であるかの証左だろう。
 

悪辣独裁者界隈の大スター、ノリエガ将軍が参入!

さて、第6話ではメデジン・カルテルの一員であるモトーア一家の娘イルマが反政府ゲリラMR20に誘拐され、エスコバル自身が銃を持ってMR20のアジトに乗り込んだりしていた。結局イルマを救出することはできず、「果たしてエスコバルの次の一手は!?」というところで第7話である。
 
囚われたイルマと、見張り役の男との間にほんわり芽生えていた恋のかけらみたいなものは、エスコバルのある決断によって棚上げされることに。MR20を壊滅させることも交渉することもできないのなら、できる人に頼みに行こう! そう思ったエスコバルは地元の政治家オルティスに頭を下げに行く。目的のために頭を下げることを厭わない男は出世する。きたる国会議員選挙の票集めと引き換えに、オルティスは裏のルートを使ってMR20と交渉。そのルートってのが隣国パナマで独裁者となる男ノリエガ将軍。おお!『ナルコス』では触れられていなかった大物の登場である。
 
(ノリエガといえばNetflixでボブ・ホスキンスが主演したノリエガの伝記映画(TVムービー)『ノリエガ 独裁者の真実』が配信されている。筆者も未見だが、本シリーズや『ナルコス』のサブテキストとして観てみるものよさそうだ)
 
そんなわけで、劇中にはまだ登場しないが、悪の権化ノリエガの仲介もあってイルマはついに解放される。モトーア一家は「よくやってくれたエスコバル!」と大感謝。ただ、解放されたイルマだけが不満顔だ。見張りの男と引き離されてムクレているのかと思いきや、「これでもうエスコバルの増長を止められなくなった、あなたたちは怪物を作ったのよ」と冷静な分析ができているのだから驚く。ママコバルもそうだが、このドラマで全体像を見通しているのはどうやら女性たちのようである。
 
さて、エスコバルはイルマの解放を祝って盛大なパーティーを開くのだが、妻のパティがゲストで呼んだベネズエラのダンディ歌手にぽーっとなっているのが気に食わない。ええっ? なんだよこの展開は。オルティスとも結びつき、メデジン・カルテルでは誰もエスコバルに頭が上がらなくなった今、エスコバルに政界入りの野望が燃え上がり、麻薬王のくせに国政に打って出るムチャな展開が待っているはず。なのに芸能人にワイキャイしている妻にジェラシーぶつけてる場合かね??
 

エスコバル、政界入りを決意す!

嫉妬に包まれたエスコバルは、だったら男衆だけで女遊びに繰り出そうぜと、パーティーを抜け出してブラジルのリオデジャネイロへ飛ぶ。ビーチでサンバダンサーズとハメを外してノリノリだ。筆者はブラジルには行ったことがないが、行けばセクシーなサンバダンサーに出逢えるだろうか。
 
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一方その頃……といった風情で登場するのが、コロンビアの新大統領を目指すコロンビア自由党の政治家ルイス・カルロス・ガラン・サルミエントさん。新自由主義を掲げ、清廉潔白をアピールし、民衆のために政治を取り戻すと公言するガランに、なんとエスコバルが心酔していたというのだから妙な話だ。
 
エスコバルは明らかに、地元の顔役という表の顔と、麻薬組織のボスという裏の顔の区分けができなくなってきている。エスコバルの政治への執着は、もはや「権力を手中に収めたい!」というだけでは説明がつかない。自分は民衆に愛される庶民の味方。だからこそ、政治家になってこの国のために働きたい! 悪い冗談みたいだが、これを本気で実行しようとしたのがエスコバルという人の愚かさであり面白さでもある。
 
名言ジュークボックスであるママコバルも、相棒のゴンサロも、メデジン・カルテルの面々もエスコバルの出馬宣言には大反対。しかしママコバルの助言すら聞かなくなったエスコバルを止められる者などいない。いよいよ国会議員の椅子へと駒を進める……と思いきや、自慢のナポリス農場にサンバダンサーズを呼びよせて、またハメを外すらしいエスコバル。どうぞお好きにしてください!
 
イラスト:タカヤマヒサキ(http://hisabon.lolipop.jp/
 
※「パブロ・エスコバル – 悪魔に守られた男」はNetflixで配信中
https://www.netflix.com/title/80035684
 
※連載記事一覧はこちらから
http://www.shortcuts.site/column/todaysescobar

作品データ

製作年:2012年

製作国:コロンビア

言語:スペイン語

原題:Pablo Escobar: El Patrón del Mal