フジコ

Hulu

その人形には「地獄」が詰まっている 『フジコ』

Hulu初オリジナル連続ドラマは血と肉が飛び散る中で踊る「夢見るシャンソン人形」のお話。

 2017.6.02

2017年にリニューアルしてHappyがonになったHulu日本向けサイトですが、2015年に初オリジナル作品として真梨幸子の大ヒットミステリー小説を映像化した『フジコ』は嫌な「人間の中身」がたっぷりonになった個人的にとてもHappyな6話完結の連続ドラマです。

 

物語は十数件の殺人により死刑判決を受けたフジコ(尾野真千子)の半生が綴られた手記が雑誌編集者・高峰美智子(谷村美月)のもとへ送られてきたところから始まります。フジコは度重なる整形手術で現在の美貌を手に入れた殺人鬼であると同時に自身も小学生当時「中津区一家惨殺事件」として名を残した未解決事件の生き残り被害者であり、その手記は送付後溺死体で発見されたフジコの娘・上原早季子によって書かれたものでした。美智子はその手記の真偽を確かめ、未解決事件の真実を探るべくフジコへの取材を開始します。そして美智子本人をも巻き込み次第に明らかになっていく様々な「人間の中身」……。

 

 

第1話を見た時、ひとつの記憶がゾワゾワと蘇りました。
私は中学1年生の時スゲー恥ずかしい思いをしたことがあります。

 

ある日学校で身体測定があったのですが、制服を脱ごうとして嫌なことに気付きました。その日に限って間違えて父親のブカブカブリーフをはいて登校していたのです。ズボンを脱いでみるとダルッダルの股下から覗く隠しようのないキンタマ・・・・頭真っ白顔面真っ赤になりつつ変な態勢でごまかそうとしましたがまんまと同級生に指摘され気が遠くなりつつなんとか測定を済ますと、制服の上着を頭からかぶって駆け出していました……。

 

私の場合それが原因でいじめられるような悲惨な目にもあわず現在に至り、おっさんになった今こうして文章にしても失笑マヌケエピソードにしか思えないのですが、もしこれが悪い方向へむかっていたら自分にどんな人生が待っていたのか……。(現在の自分がマトモだとも言えないのですが)

 

第1話で小学校時代の早季子が体験する

 

フジコ給食費を持たせず洗濯もしない

→洗濯物乾かず妹に体育着を貸す

→妹が体育着を返さず下着も無くブラウスのまま体育に参加

→胸が透けていじめっこの男子から「おっぱい」とからかわれる

→色々我慢している挙句給食時におしっこを漏らす

 

という悲惨コンボも、全く同じとは言えぬまでも似たような流れは誰にも起こりうる事だと言えます(私もおしっこなら小学校時漏らし済み)。

 

もし、早季子が漏らした時さらにからかう男子や「こんなところで給食食べられない!」と不満を訴えるだけの女子を教師がキチンと注意し、早季子に優しい言葉をかけていたら。
もし、妹がわがままを言わず姉に体育着を返していたら。
もし、早季子が自分の境遇をはね退ける力をもっていたら。
そしてもし、フジコがかつて自分が母親から受けていたような家庭内暴力を自分の娘にも与えるという運命をはねのける事が出来たら。

 

この物語の主人公は現在のフジコですが、各話で中心になるのは小学校時代の娘・早季子であり小学校時代のフジコであり整形前のフジコであり、現在のフジコが自らの「地獄」を抜け出すためいかに周囲に「地獄」をなすりつけてきたかが描かれます。

 

「地獄」とは(物理的または精神的な)暴力の連鎖であり、暴力とは自らの欲望を満たすために他者に向けられる理不尽な力の行使であり、それらがより力の弱い者、立場の弱い者に向けられる連鎖を「地獄」と呼ぶのです。

父親から、母親から、ブスといじめる男子から、体だけを求める男達からなすりつけられた「地獄」、そしてそれらから逃げるため、酷い目にあった自分が救われるために自らに引き寄せ自分の子供や他人になすりつける「地獄」。

 

もし、どこかの段階でなんらかの手段によりその流れを断ち切ることが出来たら全く違う未来が訪れたかもしれない。

でも現実にはフジコはその流れを断ち切ることが出来ず、その「地獄」から逃れて自分が夢見る「幸せ」を得るために他人に「地獄」をなすりつけ命を奪います。

 

フジコがこの物語の主人公である理由は、フジコが膨大な「地獄」を招き入れ、それをどんどん他者になすりつける「地獄」のハブのような役割を果たしているからです。

酷い目にあったから他人を酷い目にあわせる。たくさんの「地獄」を扱う強大な力を持っているからこそ、フジコは「地獄」を生き延び他人に「地獄」をなすりつけることが出来たのです。

 

「地獄」は、度合いはそれぞれにせよどんな人にも降りかかり、どんな人も他人になすりつけるのです。なすりつけないようにするためにはうまく折り合いをつけやり過ごすか、自分より大きな何かを信仰するか、死ぬか、殺されるしかありません。

 

主演の尾野真千子の体当たり肉細切れ演技も良いですが、終始不幸せ顔で物語を支える谷村美月や、フジコ整形前少女時代血まみれで男に愛を告げる小野花梨が特に素晴らしい『フジコ』。この作品の「地獄」と自分の「地獄」を比べながら、自分はどの立場にいたいのか、自分ならどうするのかを考えたりするのも一興かと思います。
 
※『フジコ』全6話 Huluにて配信中!
©HJホールディングス/共同テレビジョン
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.happyon.jp/fujiko

作品データ

製作年:2015

製作国:日本

言語:日本語

原作:真梨幸子『殺人鬼フジコの衝動』

監督:村上正典、岩田和行

脚本:高橋泉

出演:尾野真千子 谷村美月 丸山智己 リリー・フランキー 他

オフィシャルサイト