不吉な招待状

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巧妙な伏線と完璧な結末に唸る!ワンシチェーション・スリラー 『不吉な招待状』

『不吉な招待状』は“できるだけ情報をシャットアウトして観るべき”タイプのスリラーだ。しかし何も書かなくてはレビューが成立しないので、ネタバレは最小限に抑えつつ、物語の後半部分には触れないように書くことにする。面白い恐怖映画が三度の飯より好きという人は、このレビューをすっ飛ばしてすぐさま本編を観るようお勧めする。

 2016.8.13

昨年10月、大泉洋主演の和製ゾンビ・ムービー『アイアムアヒーロー』が、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭にて観客賞&特殊効果賞をダブル受賞したニュースが報じられた。そのときのコンペティションでグランプリに輝いたのがアメリカ映画『The Invitation』だ。
 
これは大変優れた恐怖映画なので、本サイトのコラム「輸入盤が恐ろしい!」で真っ先に紹介しようと思っていたのが、いつの間にか『不吉な招待状』という邦題がつけられ、NETFLIXでの独占配信が始まっていて驚いた。ボクシング映画『ガール・ファイト』で颯爽とデビューしたのち、『イーオン・フラックス』『ジェニファーズ・ボディ』という微妙なキャリアを歩んできた日系女性監督カリン・クサマの新作である。
 
舞台となるのは、豪邸が立ち並ぶハリウッドの高級住宅街。そのうちの一軒に主人公ウィルと恋人キラが、物々しい招待状を携えてやってくる。この邸宅にはウィルの元妻エデンと現在の恋人デヴィッドが住んでおり、エデンに縁ある男女8人がディナー・パーティに招かれたのだ。しかしこの招待は、最初からどこか不自然だった。ウィルとエデンは離婚の要因となった悲惨な出来事を経験しており、それから2年間、友人たちとも疎遠になっていた。なぜエデンは、このような唐突で不可解なタイミングでパーティを企画したのか。それがこの映画のミステリーの軸となる。
 
2年ぶりに顔を合わせた登場人物たちは当然のように気まずさを感じさせながらも、ぎこちなく笑みを浮かべて旧交を温め合い、せっかくのパーティをいい雰囲気で進めようと努める。ところが招待主のエデンとデヴィッドが、メキシコのあるカルト的な団体のプロモーションビデオを上映し始めたため、おかしな雰囲気が増幅する。エデンらは友人たちを自己啓発セミナーに誘うつもりなのか、それとももしや彼女たちはもっと恐ろしい邪教集団の手先なのか。起承転結の“承”にあたるこのシーンで、ミステリーの不穏レベルがワンランク、いやツーランクはアップする。その後の展開は本編を観てのお楽しみだ。
 
このワンシチュエーション・スリラーの極めて優れている点は、「トラウマを癒し、ひとりでは対処できない問題に救いを与える」と称するカルトというモチーフを、トリッキーなひねりに都合よく用いるだけでなく、現代におけるリアルかつ切実な問題として扱っていることだ。ここ数年、アメリカのインディペンデント映画ではカルトを題材にしたスリラーがしばしば作られている。心に傷を負った“正常”な登場人物が助けを求めてカルトに関わり、取り返しのつかない事件に巻き込まれる、といった類いの話である。
 
本作の主人公ウィルは「何かがおかしい。とても悪いことが起こりつつある」と最も鋭敏にパーティの違和感を察知する“正常者”だが、彼は痛切な過去の出来事のせいで情緒不安定に陥っており、今もトラウマ克服の解決法を見出せずにいる。そんな心が弱りきった青年の目を通して語られる謎めいた映像世界は、終始不確かな危うさが揺らめき、何かの弾みで不測の事態が暴発するサスペンスが渦巻いている。
 
また、この映画は脚本が素晴らしく、伏線の張り巡らせ方とそれを回収するテクニックは、コンパクトなスリラー&ミステリーのお手本というべき巧みさだ。ぜひとも鑑賞の際は、ふたつの“赤”のアイテムに注目してほしい。さらにオープニングにはウィルが車でコヨーテをはねてしまい、やむなく自らの手であの世に送ってやるエピソードが盛り込まれているが、これを後で振り返ると実に恐ろしい。エンディングも完璧というほかはなく、最高に嫌な余韻に浸れる秀作である。
 

 
※日本劇場未公開、NETFLIXにて配信

作品データ

製作年:2015

時間:100min

原題:The Invitaion

監督:カリン・クサマ