どす恋 ミュージカル

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どう薦めていいかわからないが、きっと配信だからこその可能性 『どす恋 ミュージカル』

配信動画の時代だからこそ生まれた“相撲ミュージカル”という誰得なあだ花。デブが踊り、歌い、半裸と半裸でぶつかり合う脱力と苦笑のオンパレード。あらゆることを「どうでもいい」と思わせてくれる、観る者の脳細胞を破壊した上でさらにかき乱す珍作。

 2016.12.02

「なぜ造った」は1994年に公開された映画『フランケンシュタイン』が駄作扱いされてしまった時に、何度となく引き合いに出された同作の宣伝コピーだが、『どす恋 ミュージカル』を観ていて20数年ぶりにその文句が脳裏によみがえってきた。
 
台湾出身、日本ではテレビ番組のカラオケバトルで人気者になった体重115kgのぽっちゃりシンガー、リン・ユーチュンの主演作。その歌唱力を活かしたミュージカルであり、その体格を活かした相撲コメディである。ユーチュンが扮するのは台湾からの留学生。ひょんなことから大学の相撲部に入り、情熱や友情、そして相撲の心を学んでいく。共演は『SRサイタマノラッパー』の駒木根隆介にもはや大御所バイプレイヤーの渡辺哲、そしてもれなくぽっちゃりな相撲部員役のみなさんだ。
 
正直言って、どんな観客層を想定して作られているのかさっぱりわからない。25分余りの短編で、たわいのないギャグをちりばめ、ミュージカルシーンを数曲入れ込めばストーリーを語れる分量はさほど残らない。実際ストーリーなんて申し訳程度にあればいいと言わんばかりの潔さ。エイベックスが絡んでいるから実現したと思われるリン・ユーチェンが歌うTRFの「EZ DO DANCE」カバーにのせて、まわしをつけた相撲部員たちが四股を踏みつつ踊ってみせる異様な映像に盛り上がれるひとは相当な通人だろう。
 
監督の落合賢がかねてから温めていた企画だそうだが、そりゃ実現しないだろうよ。マニアックな筋に向けたアングラビデオならともかく、半裸のおデブちゃんたちがぺったんぺったんくっついたり踊ったりする姿が売りだと言われて(念のために言うと相撲という競技を悪くいう意図は一切ありません)どこの出資者が「よし、それだ!その企画に乗った!」と言うだろうか。
 
にもかかわらず、『どす恋ミュージカル』はコマーシャル性も感じさせずアーティスティックな独創性で勝負するでもなく、おそらくもしかしたら「お相撲さんのミュージカル、おもしろくね?」くらいのノリで実現してしまっているのだ。筆者も皮肉ではなく25分の間に何度も「なぜこの映像を見ているのだろうか」と自問自答せずにいられなかった。言い換えれば、本作は確かに「いまだかつて見たことがないもの」が画面の中で展開していたのである。
 
はっきり言えるのは、こんな「なんで生まれたのかわからないコンテンツ」が生まれたのは、配信という新たなフィールドができたおかげだということ。そしてそういう勢いの中からこそ、これまでの常識を打ち破る突然変異体のような作品や表現が生まれてくるかも知れないということ。『どす恋ミュージカル』がなにかの可能性を切り拓く未来を想像はできていないが、確かにこんな珍品は見たことがないし、それだけでもう革命ののろしのような気がしなくもないし、25分だから観てみてもいいんじゃないですかと無責任に人にも薦められてしまうのである。
 
 
※dTVオリジナルドラマ『どす恋 ミュージカル』dTVにて独占配信中
©BeeTV
 
[予告編]

 
[視聴リンク]
http://pc.video.dmkt-sp.jp/ft/s0004360

内容・あらすじ

富士山大学に通う台湾からの留学生・呉 竜司は太っていることを理由にイジメにあっていた。居場所がなく友達もいない呉だったが、ある日、相撲部主将の玉木光太郎に助けられ、相撲部に入部することになる。しかし、ある事件をきっかけに相撲部を退部することになってしまった。失って初めて相撲への想いに気づいた呉は、復帰をかけた光太郎との立ち合いに挑む。果たして呉は、光太郎に打ち勝ち、自分の居場所を取り戻すことができるのだろうか……。

作品データ

製作年:2015年

製作国:日本

時間:25min

監督:落合賢

脚本:落合賢

オフィシャルサイト