ハンドメイズ・テイル/侍女の物語

Hulu

男尊女卑社会の最恐ディストピアで女は屈せずに生き抜けるか――『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』

Huluプレミアとして配信中の『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は、米国での配信開始からすぐに話題騒然。2017年のエミー賞では主演女優賞をはじめ各賞レースを総なめ。シーズン2に突入しても勢い収まらず、今、世界中で社会的に大きな物議を巻き起こしている再注目のドラマである。

 2018.10.23

THE HANDMAID'S TALE -- "June" -- Episode 201 -- Offred reckons with the consequences of a dangerous decision while haunted by memories from her past and the violent beginnings of Gilead.  (Photo by:George Kraychyk/Hulu)だから今さらこのShortcutsで紹介しなくても、その衝撃的なあらすじや社会現象を起こすほどの問題提起については、ネットで検索すればすぐに知ることができるだろう。
だが、いやだからこそ!あえてここではひとりの女性としてドラマを鑑賞したワタクシが、まっこつ恐ろしかった!心底震え上がっとる!!という、皮膚感覚の感想をお伝えしたい!
いやはやこのドラマ、『ウォーキング・デッド』で山のようなゾンビに遭遇するよりも、『アメリカン・ホラー・ストーリー』でもじゃもじゃヒゲの生えたキャシー・ベイツを観るよりも怖い、私的にはもはやドラマ鑑賞にあらず、近年まれに見る恐怖体験でしたわ!!
 
長引く戦争の影響による環境汚染で著しく出生率が減少した世界。
舞台となるのは、近未来のアメリカがキリスト教原理主義のクーデターによって新たに独立国家となったギレアド共和国。
この国に於いて女性は選挙権・財産権ほか、あらゆる権利と自由を剥奪されるだけでなく、かつて子どもを産んだことのある女性は支配階級の家に「侍女」として配属される。
 
侍女の役割とは、子どもを産むこと。
月に一度、排卵日前後にはその家の司令官と強制的に性交させられ、出産後は子どもを取り上げられてまた別の家に「子を産む道具」として送り込まれる。
耳には家畜のようにタグを埋め込まれ、名前も奪われる。主人公ジューン(エリザベス・モス)は「オブフレッド」と呼ばれているが、それはつまり「フレッドのもの」という意味。
逆らえば目玉をくりぬかれたり指や女性器(!)を切られたりと暴力で抑圧されるか、強制労働所に送られて死ぬまで働かされるのだ。
従うか、自死を選ぶか・・・隣国カナダへ逃亡するという選択肢もあるにはあるが、ジューンはこの国を離れることができない。なぜなら、こんな世界になる前に産み育てた最愛の我が子がギレアドのどこかで暮らしているから。
まさに、逃げ場のない地獄である。
 
THE HANDMAID'S TALE -- "June" -- Episode 201 -- Offred reckons with the consequences of a dangerous decision while haunted by memories from her past and the violent beginnings of Gilead. Offred (Elisabeth Moss) and Serena Joy (Yvonne Strahovski), shown. (Photo by:George Kraychyk/Hulu)第一話から、繰り出される展開のひとつひとつがあまりに衝撃的で、鑑賞しながら手先が冷たくなっていく感じがした。見終わった後も、恐怖心と胸くそ悪さが消えず、今日ばかりは好きな男の人も違った目で見てしまいそう、と思った。
 
直接的な暴力も怖いがそれよりも、宗教の大義名分のもとに男尊女卑、LGBT迫害、白人至上主義と徹底的な差別社会が進んでいるこの国の精神性に震える。
そして一番恐ろしいのは、これが架空の世界でありながら、今もここにある現実社会と表裏一体に思えてしまうからだ。
 
ドラマではギレアドが生まれる前のアメリカも描かれる。クーデターでホワイトハウスが襲撃された後、財産を守るためという名目で女性がカードを使えなくなったり、仕事を辞めさせられたり、有色人種の女性がコーヒーを買えなくなったりと、世界は少しずつ変容していく。
あれ、なんだかおかしい・・・と思いつつ我慢して飲み込んでいくうちに、じわりじわりと異常な世界になっていくのだ。
 
以前日本でも、「女性は子を産む機械」とのたまった大馬鹿政治家がいたが、そんな思考を地でいくのがこのギレアド。
あの政治家のような思考に、宗教の自由解釈を混ぜ、深刻な少子化を乗っけたらマジでこんな国が生まれちゃうかもよ、というのは決して絵空事には思えない。
今の日本だって「女性が輝く社会」などという美しい言葉が踊っているものの、実際にはどうだろう?
 
今作の監督は5人中4人が女性だという。女性の生理的な恐怖心をここまで理解しているのはなるほど徹底的に女性の目線から描いているからだろう。
 
THE HANDMAID'S TALE -- "June" -- Episode 201 -- Offred reckons with the consequences of a dangerous decision while haunted by memories from her past and the violent beginnings of Gilead. (Photo by:George Kraychyk/Hulu)このドラマは女だからこんなに怖いの?
鑑賞後、思わずそんな問いかけをTwitterにぶつけると、同ドラマを観た男友達から「男でも怖かったよ」とリプライが来た。
なるほど~なんて表向き納得したものの、私は密かに「そんなの絶対、嘘だね!」と心の中で噛みついてしまった。男と女では絶対に感じ方が違う、と思ったのが正直な気持ちだ。
だからどうか、男性に観てほしい。そして是非、正直な感想を聞かせてもらえないだろうか。
 
女性にとって(LGBTにとっても)最低最悪のディストピア。しかしそれらを執拗なまでに悲惨に過酷に描きながらもこのドラマが打ち出してくるのは、どれほどのものを奪われ、暴力に晒され、逃げ場をふさがれても、屈することなく生き抜いてみせるという強い思いだ。
 
この世界で女たちがどう生き抜き、どんな末路へ辿り着くのか。私も戦闘態勢で見続けよう。
屈するな。それは今、この社会に必要な声だろう。
 
 
※「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」シーズン1〜2 Huluにて独占配信中
The Handmaid’s Tale © 2018 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions LLC. All Rights Reserved.
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.happyon.jp/the-handmaids-tale

作品データ

製作年:2017年~

製作国:アメリカ

言語:英語

原題:The Handmaid’s Tale

原作:マーガレット・アトウッド「侍女の物語」

出演:エリザベス・モス ジョセフ・ファインズ イヴォンヌ・ストラホフスキー サミラ・ワイリー マデリーン・ブリューワー アレクシス・ブレデル マックス・ミンゲラ アン・ダウド O.T.ファグベンル