13の理由
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老人が縁側で「生きてゆくのはめんどくさい、だけど死ぬのもめんどくさい」と言う殺虫剤のコマーシャルがあった。ほんとそうだよね〜と当時 友人と共感し合った。その頃はバカみたいにお酒を飲んで酔っぱらって音楽や恋愛の話をしていた。
時は経ち、相変わらず私はバカみたいに酔っぱらってはいたけれど新しい仕事に慣れず日に日にお酒を飲む元気もなくなって、通勤時に横断歩道を渡りながら「ここに車が突っ込んでくれば…」などと考えるようになった。
始末くらい楽にできるようにしておくかと部屋の片付けをしているうちに「なんで私が仕事のために人生終わらせなきゃいけないんだよ」と極端に気が変わったので、今は横断歩道を渡るときは気を引き締めて左右を確認している。
あの頃のことを思い返すと怖い。
「13の理由」をテープに遺すハンナは、美人で、両親とも仲が良く、クラスで中心になるタイプではないけれど友人ができにくいわけでもない。
そんな彼女に何があったのか。ハンナ本人がひとつひとつカセットテープで語る。まずはあなたとの話、次は誰かしら? なんて具合に順番に。
ラジオのDJを真似した「リクエストは受け付けないわ」「アンコール放送はナシ」、自分の選択への強い意思表示のようにも聞こえる。
人によっては「そんなことで?」と感じる話もあるかもしれない。経験したことのない人には伝わりにくい。そういう地味にキツいものは、わかってもらえなさにも苦しくなる。
明らかに酷い理由には申し訳ないけれど触れたくない。
大なり小なり、いくつもの出来事が重なってハンナを追いつめていく。
ハンナの話はハンナの視点なので他の登場人物の話と異なることもある。記憶違いかもしれない。どちらかが嘘をついているのかもしれない。「事実」は人によって違う。
これを書くために観返した第1話だけでも、誰が何をしたかわかってる状態だと見え方がまったく違う。
物語上、主人公の役どころを担うクレイが、カセットテープをA面 B面 1本2本と聞いていく中で明かされる、登場人物たちの意外な一面。
なんてことだ! なんて奴だ! なんてことをしてくれたんだ!
クレイが正義の怒りを燃やすたび、クレイを通して「13の理由」は私に投げかけてくる。「あんた被害者側のつもり?」
ひどいと私は堂々と怒れるのか。
インタビュー番組「13の理由:現代が抱える社会の闇を考える」も観てみたら、主題は「お前も加害者だぞ」ってことではないようだった。でも私はずっと「あんた正義ぶって何様のつもり?」「他人事のつもりか」「目ぇそらしてんじゃねえぞ」と言われてるみたいだった。
ハンナに何があったのか、クレイはいったい何をしたのか。それはドラマを観てもらうとして、ちょっと気になることがある。
こういうテーマのものが気になる人は、自死を他人事ではなく身近に捉えているんじゃないかと思う。もし身近な人をそうやって亡くしてしまった経験のある人は、この「13の理由」を観ても自分を責めないでほしい。けっして残された人を責めるために作られたものではないと思う。
あのとき ああしていればよかった、ああしなければよかった、何度も何度もした後悔をまたさせるつもりはないと思う。
登場人物たちと似た経験がある人も、それを思い出してしまうかもしれない。
だから、辛くなりそうな人は無理に観ることはないと思う。
どうすればいいのか簡単に答えは出せないけれど、お互い尊重し合うためにどうするか、それをみんなで模索していくことは無駄ではないと信じている。
3つ年上の兄は、私が中学1年生のとき自殺をした。母の悲鳴を今でも覚えている。
本人も、周りも、こんな思いをする人が増えないでほしい。
※Netflixオリジナル作品『13の理由』独占配信中
【予告編】
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80117470