マイケル・ボルトンのビッグでセクシーなバレンタインスペシャル

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“バラードの帝王”を本人主演で茶化しまくるコメディショー 『マイケル・ボルトンのビッグでセクシーなバレンタインスペシャル』

マイケル・ボルトンと言えば90年代に大ブレイクしたロックシンガー。いやロックというより歌謡バラードの権化というイメージの方が強いかも知れない。本作は、そのボルトンのセクシーなパフォーマンスが詰まったスペシャル番組……では全然なかった! 『俺たちポップスター』のお笑いユニット、ザ・ロンリー・アイランドらが仕掛ける”ラブバラードの帝王”をネタにしまくった本人主演の一大コントショーだ。

 2017.6.10

Netflixは以前にもテレビのクリスマス特番を模した『ビル・マーレイ・クリスマス』を制作しているが、2017年は90年代が生んだスター歌手、マイケル・ボルトンをホストに迎えたバレンタインデー特番を発表……というのはあくまでも建前。タイトルに騙されないで欲しい。これは音楽ネタ映像で知られるコメディトリオ「ザ・ロンリー・アイランド」の面々が、90年代の大スターであるボルトンを肴にフザケまくった壮大なコントなのだ(正確にはザ・ロンリー・アイランドと人気お笑いショー“コメディ・バンバン!”とのコラボ企画)。
 
ザ・ロンリー・アイランドについて簡単に説明しておく。サンタバーバラ生まれのアンディ・サムバーグ、アキヴァ・シェイファー、ヨーマ・タコンヌの3人によるチームで、ヒップホップをパロった自作自演のコント映像で注目を浴び、名門お笑い番組「サタデー・ナイト・ライブ」のレギュラーに抜擢されて大ブレイク。ナタリー・ポートマンとギャングスタラップで共演したミュージッククリップネタは日本でも話題になった。
 

 
サムバーグは俳優としても引っ張りだこで、ラシダ・ジョーンズが脚本と主演を務めた残酷ラブコメ『セレステ∞ジェシー』のジェシー役だった人。シェイファーはサムバーグ主演の『ホット・ロッド めざせ!不死身のスタントマン』で映画監督デビューし、ベン・スティラー主演のSFコメディ『エイリアン バスターズ』(劇場未公開の良作!)も手がけている。タコンヌも俳優として活躍しつつ、SNLから派生した『ほぼ冒険野郎マクグルーバー』を監督するなど才人ぞろい。そしてトリオで音楽も手がけ、『LEGO® ムービー』の主題歌「Everything Is Awesome」の共同作曲者にも名を連ねている。
 
そんな彼らが得意の歌ネタをエスカレートさせたモキュメンタリーコメディ『俺たちポップスター』(2017年8月5日日本公開)にはリンゴ・スターからエマ・ストーンまで豪華すぎるセレブ陣がカメオ出演しているが、マイケル・ボルトンもその一人。ザ・ロンリー・アイランドは2011年にSNLで初披露された「ジャック・スパロウ」という歌ネタでもボルトンをゲストに招いており、ボルトンは大好きな『パイレーツ・オブ・カリビアン』についてついつい熱唱してしまうバカな本人役を熱演。ある意味で“過去の人”だったボルトンに再注目が集ったという意味で『パルプ・フィクション』のジョン・トラボルタ現象にも似ている。
 

 
さて、ストーリーの発端は、サンタクロースがクリスマスのプレゼントを大量に作りすぎてしまったこと。このままでは7万5千人分のオモチャが余ってしまう。そこでサンタは“ラブバラードの帝王”マイケル・ボルトンに「チャリティ特番をやって欲しい」と依頼する。放送日はバレンタインデー。その日に7万5千人の女性が妊娠すれば、クリスマスには7万5千人のベビーが生まれてくるはず。それではマイケル・ボルトンが、誰もが思わずセックスしたくなるセクシーな歌謡ショーをお届けします!という趣向である。
 
体裁はチャリティ番組なので、視聴者からの電話の応対をするべくスタジオにはブルック・シールズや「フルハウス」のボブ・サゲットら有名人がスタンバイ。ただし受け付けているのは寄付金ではなく、「いま子供を仕込みました!」という報告だ。番組が終わるまでに7万5千人分の妊娠をカウントするのが目的である。
 
とまあ、言葉を尽くして説明するのもバカバカしいが、披露されるパフォーマンスも輪をかけてバカバカしい。フュージョンジャズの大物ケニー・G(演じているのはサムバーグだが本物のケニー・Gも登場)が現れてボルトンがトレードマークだった長髪をやめたことをなじったり、パンクスが乱入して番組をぶち壊そうとするのを粋なダンスで撃退したり(ダンスの鬼教師役はマイケル・シーン)、サラ・シルヴァーマンやマーヤ・ルドルフらSNL仲間が下ネタソングを披露したり……。
 
しかしやはり本作の主人公は、タイトルロールであり、本物が自作自演するマイケル・ボルトンその人だ。「商業主義の歌ウマタレント」というパブリックイメージを真正面から背負い、ゴージャスでセクシーなセレブシンガーの役割を全うしてみせる。正直、筆者はボルトンの音楽に惹かれたことはなく、こんなにバカなことを堂々とやってのける面白い人であることは前述の「ジャック・スパロウ」のビデオを観るまでまったく知らなかった。
 
勝手な想像だが、おそらく自分だけでなく多くの人がマイケル・ボルトンという存在を半笑いで斜めから見ていたはずだ。だからこそ、ボルトンに興味がなかった人にこそ、この愛情あふれるイジリ番組を強く勧めたい。クライマックスまで観てもらえばわかるが、これは自分を笑い飛ばせる男、マイケル・ボルトン版の『ズーランダー』として語られるべき怪作なのである(とまでいうのはさすがに褒め過ぎだろうか)。
 
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※Netflixiオリジナル
「マイケル・ボルトンのビッグでセクシーなバレンタインスペシャル」
独占配信中


【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80151370

作品データ

製作年:2017年

製作国:アメリカ

言語:英語

時間:54min

監督:スコット・オーカーマン、アキヴァ・シェイファー

出演:マイケル・ボルトン アンディ・サムバーグ ウィル・フォーテ ケニー・G マーヤ・ルドルフ アダム・スコット ジャニーン・ガロファロー ブルック・シールズ マイケル・シーン ボブ・サゲット サラ・シルヴァーマン アキヴァ・シェイファー ヨーマ・タコンヌ 他