13の理由
NETFLIX
学生の頃、好きな男子や仲の良い友だちとカセットテープを交換した思い出はあるだろうか。
イエスの人は、はい、私と同じく昭和生まれのいいお年ですね。
イマドキの若者たちにとってもはやカセットはアンティーク。私の世代でいうオープンリールみたいな物ですな。え？オープンリールってなにって？ググれ！
交換するカセットに入れるのは、たいてい自分が好きな曲。
ラジカセで自分の声を録音してラジオDJ風に曲紹介したり、告白を意味する恋歌を入れて渡したりするのもまた青春･･･（遠い目）。B面（裏面）の最後には、好きな子からの録音メッセージが入ってないかと期待して聞いたりもしたものだ。
SNSもLINEもメールすらなかった時代、テープを渡すという行為は、もっと自分を知ってもらいたいという“隠されたサイン”だった。
だがもしも、そんなサインを送ってきたのが、既にこの世にいない友だちならば？
もしもそこで語られる内容が、自分が封印したはずの秘密ならば？
そしてその秘密こそが、彼女を死に向かわせた理由だとするならば･･･。
主人公の男子高生クレイは自分の感情を表に出すのが苦手なタイプ。クラスの人気者たちともつるまず、ある意味じゃ我が道を行くタイプともいえるけれど、地味で目立たず大人しいから、親もなにを考えているのか掴みづらい。
数週間前に同級生の女子高生が自殺して学校中がナーバスになっているこの頃は特に、親も教師も子どもたちの「見えないサイン」を探そうと必死だけど、クレイは本当の感情を胸の奥にしまって過ごしていた。
そんなあるとき、クレイのもとへ靴箱に収められたカセットテープが届く。
13面までナンバリングされたテープの送り主はなんと、自殺した女子高生ハンナ。
「途中で切らないでね。必ず最後まで聞いて――」
それは、彼女が自ら死を選ぶまでの道のりを克明に語った告白だった・・・。
ドラマはハンナが同級の生徒たちを一人ずつテープで名指ししていく形で、一話につき一面、計13面のストーリーで構成されている。
ハンナは死の理由を語るだけでなく、このテープをすべて聞き終えたら他の生徒に回すよう指示を添えていた。なぜならそのテープに登場する人物はすべてハンナの死に関わってるからだ。
そう、クレイ自身も。
衝撃的な内容に販売中止を求める苦情も殺到したというヤングアダルト小説『13 Reasons Why（原題）』がベースのドラマ。
一話進むごとに生徒たちの人物相関図が拡がり、彼らの秘密が暴かれると同時に隠された悲劇の真相が浮かび上がってくる。
次は誰の秘密が明かされるのか？また、このテープにいつ「自分」が登場するのか？
視聴者は主人公クレイの目線で、「自分」が加害者になるかもしれないという緊張感をはらみながら謎を追っていく。サスペンスとしてみても、かなり引き込まれる内容だ。
自殺の理由は、いじめとは限らない。明確な悪意がなく、中にはテープで名指しされるまで当人ですら気づかなかった些細なボタンの掛け違いでさえ、自殺のきっかけになりうる。
クレイには自覚がない。だからこそ恐ろしい。
他の生徒たちも、金持ちの息子や貧乏人の子ども、スポーツマンやチアリーダーと、様々なスクールカーストに身を置いて、それぞれ家庭や友人関係に問題を抱え、「学校という社会」のヒエラルキーで傷つきながら生きている。
ハンナに心の傷を負わせた者たちが純然たる悪人とは限らないからこそ、その絶望の形は複雑で、13面もの理由が存在するのだ。
ハンナがとった自殺という手段もまた正義とはいえず、そこで生み出すものも単純な復讐ではない。
死後の暴露は、ひび割れたガラスの亀裂が広がるように、不安定な若者たちの心へ拡がり、また新たな傷を表出させていく。
ティーン・エイジャーの抱える闇を、ハンナだけでなく、あらゆる生徒の側面から描いているドラマだ。
製作総指揮の一人に人気歌手のセレーナ・ゴメスがいる。ティーンアイドルとしてデビューし人気を博した彼女自身も、恋愛沙汰や友人関係を散々ゴシップのネタにされ、心を病んで療養したことがある。彼女自身、「見えないサイン」に気づいて欲しかった一人なのかもしれない。
ドラマの結末はわかっている。自殺した彼女が生き返ることはないのだから。
だが、残された者たちに開かれる扉の向こうになにが待つのかは、テープが13面の再生を終えるまでわからない。
※Netflixにて独占配信中
【予告編】
