フリーバッグ

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英国直送、ドラマ史上稀に見るクズな女の泣き笑い『フリーバッグ』

フリーバッグとは汚くて不愉快なヤツ(人でも動物でも)という俗語。なんでか実の家族からこんなろくでもないあだ名で呼ばれていたという女優/コメディエンヌ、フィービー・ウェラー=ブリッジが、あだ名に恥じないクズなヒロインを怪演するブラックコメディ。

 2017.3.23

ダメ人間が出てくる映画やドラマが好きだ。改心したり成長したりしなくていい。ダメ人間なせいで周囲に迷惑をかけることもあるだろうが、ダメなことは別に罪じゃない。自分がダメ人間だという属性を痛感しながらおめおめと生きていく、それがダメ人間モノの醍醐味なのだ。
 
ところが、だ。英国産ドラマ「フリーバッグ」の主人公、フリーバッグはドラマの開幕早々から「ダメ」の域を軽々と超えてくる。ロンドンで小さなカフェを経営しているこの女性は第一話で同棲中の恋人に去られてしまう。理由はベッドでオバマ大統領の動画を観ながらオナニーしていたから。隣に恋人が寝ている隙に、である。そりゃ相手だってイヤだろうよ。性癖はともかくいくらなんでも場所を改めるなりしなさいよ。そりゃフリーバッグなんて忌々しいあだ名だって付けられるだろうさ。こいつはダメ人間なんかじゃない、クズだ! 
 
ドラマの原型になったのは脚本・主演・製作総指揮を兼ねている女優フィービー・ウェラー=ブリッジの一人芝居で、ウェラー=ブリッジは「セックスという呪いにかかった女=フリーバッグ」を生み出した。ドラマシリーズではテレビ向けに多少表現を抑えているらしいが、このヒロインは自分の悪癖とされるものすべてに一切言い訳をしない。オバマでオナニーし、行きずりの男と適当にセックスし、反りの合わない継母(『思秋期』のオリヴィア・コールマンがマジで腹立つ名演!)が大切にしている置物を盗んで転売しようとする。頭の中では常に皮肉が渦巻き、ご丁寧にカメラ目線で口に出して教えてくれる。表向きにはダメ人間、精神的には無頼のアウトロー、実際にやってることはただのクズ。毒づきまくる内容は時に共感を呼び、時にひど過ぎてドン引いたりもするが、天にツバを吐くスタンスはもはやカッコいいとさえ言える。
 
そんなフリーバッグを中心に、神経過敏なキャリアウーマンの姉、繊細すぎる元カレ、自意識過剰なイケメンのセフレ、無神経な継母らの群像コメディがオモシロ可笑しく綴られていく……と思いきや、そうは問屋が卸さなかった。一話30分に満たない全6話の短いシリーズなのだが、毎回毎回趣向を変えながら、フリーバッグの抱えている闇をあぶり出していくのだ。
 
フリーバッグが性欲過剰で他人に対して無礼極まりないビッチなことは終始変わらないが、ビッチであろうがなかろうが家族の問題には悩み傷つき頭を抱えるし、人生は今のままではいられないとわかって焦っているし、自分のしでかした取り返しのつかないことへの後悔に苛まれてもいる。フリーバッグと憎み合いながらも支え合っている姉だって、恋愛依存が強すぎて不幸を招き寄せる元カレだって、やはりままならない人生に振り回され、自分にウソをつき、妥協と共存しながら生きている。ヒロインもクズならほかのキャラクターもロクデナシか面倒くさい厄介者ばかりだが、それでも泣いたり笑ったり、人生は誰にも平等に厳しく滑稽であると教えてくれるのだ。
 
正直、過激な本音満載のブラックコメディと思って観始めたので、こんなに等身大で切ない話になるとは予想していなかった。フィービー・ウェラー=ブリッジは本ドラマで絶賛を浴び、新たにスリラードラマのショーランナーを任され、女優としてもハン・ソロの若き日を描く「スター・ウォーズ」のスピンオフに出演決定と売れまくっているので、シーズン2ができるかどうかよくわからない。でも、どうしようもないけど可笑しくて強くてか弱いフリーバッグとはまだまだ付き合っていきたいので、ウェラー=ブリッジのライフワークとして描き続けて欲しいと願っている。

※Amazonプライムビデオで独占配信中
 
《予告編》

 
《視聴リンク》
https://www.amazon.co.jp/dp/B01N6S4YBK/

内容・あらすじ

ロンドンでカフェを営むアラサー女性フリーバッグの日常を、セックスジョーク満載の辛辣なユーモアで綴るドラメディ。自らの一人芝居をもとに脚本、主演、製作総指揮を兼ねているのは『アルバート氏の人生』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』などに出演していた女優フィービー・ウェラー=ブリッジ。

作品データ

原題:Fleabag

監督:ハリー・ブラッドベア、ティム・カークビー

脚本:フィービー・ウェラー=ブリッジ

出演:フィービー・ウェラー=ブリッジ シアン・クリフォード オリヴィア・コールマン ヒュー・スキナー 他