レッド・オークス

ShortCuts編集部

80’s青春ドラマ「レッド・オークス」1万字座談会

Amazonプライム・ビデオのオリジナルドラマ「レッド・オークス」のシーズン2の配信が始まった。スティーブン・ソダーバーグが製作総指揮を務め、デヴィッド・ゴードン・グリーン(『スモーキング・ハイ』)、エイミー・ヘッカリング(『初体験/リッジモント・ハイ』)、ハル・ハートリー(『シンプルメン』)ら豪華映画監督が参加した80年代が舞台の青春ドラマ。でも「日本での知名度がちょっと低いんじゃないの!」といきり立ち、その魅力を語り合う座談会を開催しました!

 2017.1.10

参加者:茅野布美恵(編集者)、キーツ(エイティーズ)、村山章(映画ライター)

《ソダーバーグの右腕が描く80年代青春群像》

RO-582.arw村山 まずは、みなさんが「レッド・オークス」の何がとっかかりになって観たのかを訊きましょうか。まあ、オレが勧めたんですけども。
 
茅野 私は『初体験/リッジモント・ハイ』(82)が好きで、「レッド・オークス」のバイト先の雰囲気が『初体験/リッジモント・ハイ』のモールに近かったんですよ。
 
キーツ あのカントリークラブ自体が『初体験/リッジモント・ハイ』のバイトの場だったモールだと。
 
茅野 (『初体験/リッジモント・ハイ』を監督した)エイミー・ヘッカリングが参加していることもあって余計にそう思えたんですよね。
 
村山 一応説明しておくと、「レッド・オークス」はレッド・オークスという名前のカントリークラブが舞台で、そこで夏限定のバイトをしている若者たちの青春群像ドラマ。日本でカントリークラブというとゴルフのイメージですが、アメリカではテニスとか乗馬とかいろんなスポーツができるスパ併設の社交場って感じなんですね。で、時代設定が1985年。このメンツで座談会をやろうと思ったのは、お2人が80年代を通過していて、あの時代の青春映画に特に思い入れがあるからなんです。
 
茅野 このドラマってスティーブン・ソダーバーグが企画したんですか?
 
村山 ソダーバーグの制作会社が企画を立てて、Amazonが買った。
 
キーツ そこにすごく興味がある。
 
茅野 私もそこが意外だったんです。
 
キーツ ソダーバーグのことはよく知らないんだけど、一番知りたいのは「なんで今、ソダーバーグが1985年を?」ってとこ。1985年っていったら『ブレックファスト・クラブ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が世に出た80年代のエポックとなる年で、あの時代のポップスや青春映画を讃えた「1985」って曲ができてるくらいなのね。ボーリング・フォー・スープが歌ってヒットしたんだけど。だから1985年って特別なはずなんだよ。

 
茅野 ソダーバーグって何歳? 80年代当時、彼は青春映画をどう観てたんでしょうね。
 
村山 ソダーバーグは今53歳。デビュー作の『セックスと嘘とビデオテープ』でいきなりカンヌのパルムドールを獲ったのが1989年。85年は22歳くらいで、主人公のデヴィッドよりちょっとだけ年上ですね。事実関係でいうと、「レッド・オークス」のクリエイターで脚本も書いているグレゴリー・ジェイコブズは、ソダーバーグ作品の大半でチーフ助監督をやってきた右腕的存在なんです。で、ジェイコブズは主人公のデヴィッドと同じNY大学出身で、夏休みにテニスコーチのバイトをしていた。
 
茅野 ああ、実体験なの?
 
村山 そうなんです。もちろん脚本は2、3人で書いてるし、完全に自伝ってわけではないんですが。ジェイコブズからその話を聞いたソダバが「それ面白いよ、ドラマになるんじゃね?」って食いついたのが発端らしいです。ただ調べてもなぜかジェイコブズの生年が出てこなくて、主人公のデヴィッドみたいに1985年に20歳だったかどうかは確認できてないんですが。でも映画監督やクリエイターってオタク気質や文系感のある人が多いじゃないですか。その点ジェイコブズはリチャード・リンクレイターに似てますね。リンクレイターって高校時代は花形の野球部員で、スクールカーストでいえばトップだった。みんなから羨まれる立場なのに、いつも自分はゴミみたいな気持ちでいた、負け犬の気分で暮らしていたと語ってます。
 
茅野 リアル『桐島、部活やめるってよ』(12)じゃないですか!
 
キーツ リンクレイターの青春映画には、体育会系と文化系の間で揺れてる主人公がわりと出てくるよね。『バッド・チューニング』(93)しかり、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界は僕らの手の中に』(16)しかり。
 
村山 リンクレイターは野球の推薦で大学に入って、怪我で挫折して映像の世界に移った。『桐島~』なら東出くんから神木くんになったみたいな(笑)。「レッド・オークス」の主人公デヴィッドも、テニスコーチを仕事にするくらいにスポーツマンなわけじゃないですか。一方でNY大学っていう映画学科の名門に通ってるんだけど、お父さんに言われて会計学を専攻してる。明らかに映画オタクだし、まあデヴィッドのお父さんもそうなんですけど、将来の展望がなくて迷っている若者なんですね。これもジェイコブズの自画像なのかも知れませんよね。

 

《「レッド・オークス」は80年代青春映画へのオマージュか?》

RO-1260.arwキーツ 時代の話に戻ると、1985年だからドラマの中でも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が出てくるよね。
 
茅野 その映画を映画館で3回も観る親友のウィーラーが出てきますけど、私は『初体験/リッジモント・ハイ』でジェニファー・ジェイソン・リーが2回目に体験する相手に立ち位置が重なるんですよ。
 
キーツ あの、なにかと口説きのメソッドを持ってるやつね。チープトリックの歌を使ってナンパする(笑)。俺は「レッド・オークス」の配車係のウィーラーと学園では勝ち組なイケてる女子のミスティのカップルは『キャント・バイ・ミー・ラブ』(87)でパトリック・デンプシーとアマンダ・ピーターソンが演じたロナルドとシンディだ!って思ってるよ。で、主人公のデヴィッドは、『初体験/リッジモント・ハイ』でバイトを転々としてるブラッド・ハミルトン(ジャッジ・ラインホルド)。このドラマって『バッド・チューニング』や『キャント・バイ・ミー・ラブ』、『初体験/リッジモント・ハイ』なんかの要素がバコンバコンと入ってる。
 
村山 それはオマージュってことですか?
 
キーツ いや、単なるオマージュではないかな。「学園もの」って、支配者がいて、勝ち組/負け組がいて、そこで抗うような身の程知らずの恋が生まれて、その背中を押してくれる薫陶好きの先輩がいて……みたいな、学園という箱庭的空間の異質な秩序を描いているんだけど、「レッド・オークス」も学園がカントリークラブに置き換わってるだけで同じような構図があるでしょ?
 
村山 たしかに。ゴルフプロとテニスプロがいがみ合ってたり、配車係は名前さえ憶えてもらえなかったりみたいな職種間の貴賤もありましたね。で、ウィーラーは身の程知らずの高嶺の花にアタックするし、薫陶好きの先輩も……いた! テニスプロのナッシュだ(笑)。確かに似てますね。
 
キーツ 就職にしろ進学にしろ、人生が大きく変わる前のモラトリアム期に、立身出世を狙って他人を出し抜いたり、パワーバランスを見て身の振り方に悩んだりって、特定の環境や時代に限定されることでもないじゃない? 将来を定めることは自己を確立していくことでもあるんだから、恋愛ひとつとっても、階級くらい超えないと旧態然とした自分のブレイクスルーにはならないって。
 
茅野 ただの惚れた腫れたではないと。
 
キーツ 俺はそれがまったく出来なかった組だけど(自嘲気味に)、だからこそこういうドラマにハマっちゃう。
 
村山&茅野 (笑)
 
キーツ ま、俺のことはいんだけど。つまり「レッド・オークス」も「学園もの」が培ってきたアレコレのキモのところに触れまくっていると感じたんですよ。それを学園じゃない場所、ティーンではない年代でやっていることで、その普遍性が実証された感があるよ。
 
茅野 『アメリカン・グラフィティ』(73)もそうですよね。
 
キーツ アメグラで有名な“登場人物たちのその後を伝えるエンディング”は『初体験/リッジモント・ハイ』でもやってるけど、人生において大きな一歩を踏み出す直前の物語だからこそ、その後を伝えるエンディングが効いてくるんだろうな。
 
村山 青春ものって「青春は終わる」ってことが大前提のジャンルですよね。大人になるとその前提で観るからどんなに明るい内容でも切ない。繰り返し観ても飽きないのは、その年齢ごとに見方が変わるからですよね。「レッド・オークス」っていうタイトルもわかりやすくていい。レッド・オークスという小宇宙にすべてが凝縮されているのがわかる。「シーズン2」でも、またあのカントリークラブに戻ってきますしね。
 
茅野 ええ! じゃあまだあのバイト先から出られないの? どういうこと?
 
キーツ また次の夏のバイトに戻ってくるんじゃない? 卒業するまでは「レッド・オークス」から出られない(笑)。
 

《シーズン1最大の問題作と一番人気のエピソードが並ぶ7話と8話》

RO_-303.arw村山 ちょっとネタバレ気味になりますが、シーズン2第1話のサブタイトルって「パリ」なんですよ。デヴィッドが、約束通り追っかけて行っちゃうんですかね(笑)。
 
茅野 しかもエピソード監督がハル・ハートリー! シーズン2ではハートリーが5話分も監督してるんですね!
 
村山 ハートリーはシーズン1ではスポット参加でしたけど、シーズン2ではメイン監督に昇格してる。5話分って全体の半分ですからね。
 
茅野 彼がこの手のドラマをやるっていうのも意外。シーズン1の第5話のクレジットで彼の名前を観た時は驚きました。

村山 わりとNYインディーズ界では孤高な立ち位置ですよね。オレも本人のオリジナルじゃない企画を他人から依頼されて撮るような人じゃないと思ってました。
 
茅野 ハル・ハートリーって「レッド・オークス」の誰かと繋がりがあるんですか? 
 
村山 わかってるのはジェイコブズが監督した映画『デス・ロード/染血』(07)にハートリー作品の常連マーティ・ドノバンが出演してたってくらいですね。『トラスト・ミー』(90)とか『愛・アマチュア』(94)に主演していた人。
 
キーツ エピソード監督の人選も興味深いよね。ハル・ハートリーもそうだし、『初体験/リッジモント・ハイ』のエイミー・ヘッカリングだとか、シーズン2ではグレッグ・アラキも参加してるし。
 
茅野 エイミー・ヘッカリングはシーズン1で大林宣彦監督の『転校生』(82)ばりのエピソード「入れ替わった体」(第7話)を監督してましたね。入れ替わるのは男の子と女の子じゃなくて、『バイス・バーサ/ボクとパパの大逆転』(88)みたいにお父さんと息子ですけど(笑)。
 
キーツ IMDBの投票だとあの回が一番評判悪いみたい。
 
茅野 やっぱり(笑)。なんでこんなベタなのを?とは思いました。
 
キーツ そこまで全体的にわりと現実路線で進んでいたのにね。続く8話目の「アフター・アワーズ」ってエピソードもヘッカリングだけど、こっちは7話とは打って変わって2組のデートの話。デヴィッドとレッド・オークスの社長の娘スカイがNYに繰り出す話と、もう1組は大金をせしめた配車係のウィーラーとミスティのデート。こっちは逆に一番評判がいいんだよね。IMDBでは9点。7話は7点。
 
村山 7点だって評判が悪いってほどの点数じゃないですけども。
 
茅野 ただ7話だけは異質に感じたんですよ。
 
キーツ twitterでも誰かが「7話だけ浮いてる」って。
 
村山 でもオレは、あの入れ替わりのエピソードがそれほど突拍子もないとは思ってないんですよ。ネタ自体は突拍子もないですけど、ドタバタで押し切らないでしょ。クライマックスでてんやわんやの大騒ぎが起きるんじゃなくて、スーッと静かに終わっていく。あのやり過ぎない感覚ってこのドラマ全体に共通しているんじゃないかなと。確かに一番荒唐無稽な回ではあるんですけど、それもシリーズのテイストの中に収まっていた気がしました。
 
キーツ ハル・ハートリーやソダーバーグみたいなインテリがIQ低そうなことをやってもドタバタに見えないのかも。バカになりきれない(笑)。例えば、主人公がアート系のパーティに連れて行かれて巨大なペニスのオブジェにぶつかるシーンがあるんだけど、そのペニスのオブジェのカットを、ふわーっと次のソフトクリームの看板のカットにオーバーラップするの。で、次のカットではウィーラーたちがソフトクリームをペロペロ舐めてる。きっと“チンコ舐め”を彷彿させる下ネタギャグにしたかったんだろうけど、このドラマの中にあるとどうにも伝わりづらい(笑)。
 
茅野 作り手の隠せない「品の良さ」が出ちゃうんですかね(笑)。でも第8話は80年代を知らない人でも共感できるものが詰まっていると思いました。より多くの人たちが共感しやすい。やっぱり恋愛話だからかなあ。
 
村山 確かに一番甘酸っぱいエピソードですね。
 
茅野 しかもシリーズ全体で起承転結の「転」になってる大事なエピソードじゃないですか。「この後、シーズン2ではどうなっていくのか?」と考えさせる余韻も残していく大切な回なんだと思いました。
 
村山 確かに全体的には「転」が少ないドラマですよね。その中で特に第8話はそれぞれの気持ちが展開してる。もっとわかりやすく「転」なのはいろんなトラブルが巻き起こる第9話でしょうけど。
 

《青春映画には欠かせない「上と下の構図」の妙》

RO-162.arwキーツ 俺は第1話を観た時にすごく興奮したんですよ。いろんな要素が積みあがってる!って指を折りながら。例えば配車係のウィーラーは車を持ってないからカントリークラブのカートをマイカー扱いしてるんだけど、あれは『キャント・バイ・ミー・ラブ』でいうロナルドの芝刈り機だよね。ちなみに憧れのミスティの車は白いワーゲンゴルフのカブリオレで、これは『キャント~』のシンディとまったく同じ!
 
茅野 アイテムの使い方、たしかにリンクしますね。
 
キーツ アイテムだけじゃないよ。木の上にいるミスティをウィーラーが口説く時、「僕がそっちに行くよ」といって枝に登ろうとするんだけど、体が重くて登れないシーンがあったでしょ、あそこで登れちゃったら、そっちのクラスに上がるってことになるんだよね。結局ウィーラーの等身大のジョークにほだされてミスティは木の上から降りてくるんだけど、ウィーラーが登るんじゃなくてミスティの方が降りてくることの大事さ! これも『キャント~』が描いた構図だ!とか。
 
茅野 『セイ・エニシング』(89)の名シーンと同じ、上下の構図でもありますよね!
 
キーツ やっぱり等身大の自分をぶつけた上で、降りてきてもらわなきゃダメなんだよ。背伸びしたって続かないんだし(笑)。あのシーンで、いい青春ものになると確信しました。『キャント~』のロナルドはお金で彼女と同じステイタスを買って失敗したけど、ウィーラーも背伸びして儲けた金で失敗するし。でも『キャント~』と似てるってことを言いたいんじゃなくて、『キャント~』が示した普遍的な要素がこのドラマにも落とし込まれてるってことなんですよね。
 
茅野 ウィーラーとミスティ、端役のふたりだけでもそこまで盛り上がれるのね(笑)。
 
キーツ ただ「こりゃいいのが見られるぞ!」と思って観始めたら、わりとインテリっぽい感じで淡々とエピソードが進んでいったので、テンション的には梯子を外された感もあって……。8話の「アフター・アワーズ」でまだアガッたけど。スカイ役のアレクサンドラ・ソーシャの黒水着バッチ~ン!でフィービー・ケイツの赤ビキニプッチ~ン!を思い出したりして。
 
村山 でもオレはこのドラマの淡々としたテイストも好きなんですよ。80年代ってキッチュで安っぽい文化が描かれがちですけど、「レッド・オークス」って時代の記号的なアイテムをひけらかしたりしないですよね。わざわざルービックキューブを出したりとかはしない。その寸止め感を小賢しいと感じる人もいるかもしれないですけど、一見地味なドラマですけど、知的で品があって、アメリカでちゃんと評価を得ているのは大成功なんじゃないですかね。
 
キーツ 海外の感想コメントに「これは若者向けじゃなくて大人向けの青春コメディだ」っていうのがあったけど、知的で品があることがそう言わせたのかもですね。たしか好意的なコメントだったと思う。
 
村山 これはジェイコブズのインタビュー記事で知ったんですが、「レッド・オークス」のデヴィッドの宙ぶらりんな佇まいは『卒業』(67)のダスティン・ホフマンのイメージなんだそうです。大学で勉強して、周りの大人たちから期待をかけられて、でも本人は何がしたいのかがわからずに途方に暮れている。あのホフマンの顔がデヴィッドを演じたクレイグ・ロバーツにもあるんだと。80年代の物語ではあるけれど、80年代の青春映画そのままではなくて、もっと陰鬱だったり内省的だったりする60年代的な主人公像ってことですよね。デヴィッドのあの煮え切らない感じ、『卒業』だって思うとすごく合点がいきました。
 
茅野 『卒業』では主人公が好きな女の子のお母さんに走っちゃったり、「レッド・オークス」では彼女がいるのにオーナーの娘に惹かれちゃったり、どっちも煮え切らない男ですよね(笑)。
 
村山 デヴィッドは第8話の「アフター・アワーズ」でスカイを誘うまで、どちらかというと流されるままの主人公で。
 
茅野 自分の力でチャンスを掴もうとしてなくて、いつも降ってきてくれますよね。
 
キーツ そもそも最初から自分を求めてくるカワイイ彼女がいるという。
 
茅野 ただデヴィッドの風貌がイケてなくないですか? スポーツマンのはずなのに身体がすごくだらしない。
 
キーツ なのに劇中では「その身体ですぐアスリートってわかったよ」なんて言われてるんだよね、ゲイに(笑)。
 
村山 でも茅野さんの中でデヴィッド役のクレイグ・ロバーツは『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(71)バッド・コートの再来なんでしょう?
 
茅野 そうなんです。『サブマリン』(10)を観てすごい人が出てきたなと思ったんです。
 
村山 『サブマリン』はいい映画でしたね。自分が水準以下だと思ってる自意識過剰な15歳が、自分に見合った水準以下の女の子と付き合おうとする話で(笑)。
 
茅野 なのにこのドラマではあんなにだらしないボディになっちゃって……。テニスコーチ役のくせにあの身体はないだろうと。
 
キーツ テニスのプレイも、実はそんなにうまくない(笑)。でも、設定の上ではスポーツができるし、ちょっと写真やビデオを撮ればそれなりに認められるし。
 
村山 そう、器用貧乏なんですよ。だからこそデヴィッドは人生の指標が定まらないんですよね。
 
キーツ 村山さんはソダーバーグが大好きだけど、ソダーバーグ色は感じた?
 
村山 「やりすぎない」「これ以上必要ないと思ったらすっぱり終わる」みたいな節度や潔さは共通してますけど、やっぱりジェイコブズの作品なんじゃないかという気がします。ソダバはおそらく自分の名前を使って企画を通して、ジェイコブズたちクリエイターチームに自由にさせてるんじゃないかな。同じくAmazonプライム・ビデオで観られる「ガールフレンズ・エクスペリエンス」もソダバが製作総指揮ですけど、そっちは元ネタがソダバの映画ってこともあってかなりソダーバーグらしさを感じる作品でした。ソダバって「怜悧」なんですよね。鋭くて、どこか冷めている。ソダバが監督した『マジック・マイク』(12)とジェイコブズが監督した続編『マジック・マイクXXL』(15)を比べてみると明白で、『マジック・ンマイクXXL』は圧倒的にキャラクターにもお客さんにも優しい。「レッド・オークス」も回数を重ねるごとに、どのキャラクターも好ましく思えてくる優しさがありますね。
 
キーツ このドラマを観て「すごくよかった」って言ってたのはそういうところ?
 
村山 ですね。面白くしようとしてドラマを作りすぎると「僕たちの、私たちの話」じゃなくなっていく。「レッド・オークス」って物語の起伏もその辺にいる凡人の人生に収まる範囲で作られていて、エンタメとしてはアップダウンが小さめかもしれないけれど、だからこそ自分たちにも手が届く青春ものって感じがするんですよ。
 
茅野 私は時代のニーズに沿ったのかなとも思いました。今の若い人たちって「80年代を押し付けられる」って感覚を持ってると思うんですよ。「大人のノスタルジー」で片づけられてしまうというか。でもさっきキーツさんが言ってたように世代を超えて成立するものを持っているので、敢えて80年代をそのままパッケージするんじゃなく、今の若い視聴者にも届くような温度で作ってるのかなと。
 
キーツ 80年代が舞台だから当たり前なんだけど、このドラマって携帯電話みたいなテクノロジーが一切出てないのに不思議と昔くささを感じさせないですよね。やはり「携帯やスマホがあるかどうか」が昔と今の違いではないってこと。
 

《“オトナ気ないけどちゃんとオトナ”な大人たち》

RED_5244.NEF村山 こっちが歳をとってきたせいもありますけど、「レッド・オークス」は大人の描き方もすごくいいですね。
 
茅野 私、デヴィッドのお母さんが好きなんですよ。演じてるのが『ダーティ・ダンシング』(87)のジェニファー・グレイだって全然気づきませんでしたけど!
 
キーツ 俺なんていま観直してもわかんない。
 
村山 キャストでは有名枠ですよね、ジェニファー・グレイと、あとオーナーの奥さん役がジーナ・ガーション。
 
キーツ あれ、ジーナ・ガーションだったの? 全然わからなかった(笑)。
 
茅野 デヴィッドのお母さんってバイセクシャルって設定ですよね。シーズン1の冒頭でそのことに触れて、一度パーティでヨガの先生に言い寄られたけれど、そこからの展開はシーズン2に続くんですかね。気になります(笑)。
 
村山 あのお母さんもそうですけど、回が進むに従ってこれほど大人たちにもスポットが当たるとは思わなかった。大人の描き方で最近多いのは、ノア・バームバックとかが典型的ですけど、「大人って実は全然大人じゃないんだよ」という視点。90年代以降に非常に増えた気がしてますが、「レッド・オークス」の大人たちは同じパターンのようで、実は子どもたちに対してはすごく大人なんですよね。
 
茅野 ですね!
 
村山 大人たちも迷ってるし、右往左往してるけど、自分たちより下の世代に対しては毅然としてる。ノア・バームバックが『グリーンバーグ』(10)で「大人になれない大人」の究極を描いたのとは真逆ですよね。立場が違えば大人は大人として振る舞うんだっていうことをちゃんと描いてる。
 
茅野 自分が大人になって思うのは、親の言うことってだいたいは正しいんですよね(笑)。それが唯一の正解ではないけど、正解のひとつではあると感じられるようになった今だから、それがより明確に見えてくるのかもしれないですね。
 
キーツ ジョー・ダンテの『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』(93)に「大人なんて実は何もわかっちゃいないのさ」っていうジョン・グッドマンの名セリフがあるんだけど、確かに自分も昔考えてたような40代にはなれていない。でも、子供には一応親みたいなことは言うわけ。本来のダメな自分に目をつぶり、自分のことは棚に上げて。それで思い出したんだけど、うちの親って堅い親だったのね。口うるさくて、こんな親にはならないし、なれないと思ってたんだけど、俺がいない時に友だちが俺んちを覗いたら、2人がくすぐりあってイチャついてたんだって(笑)。で、そいつは「親、すごく仲いいね」って。完全に俺の知らない親。結局、親とか大人っていうのは属性じゃなくて役割とか機能みたいなもんなんだろうね。「あの人、大人だよね」っていうのは、すべき時に大人の役割を果たせている人ってことなんだと思う。
 
村山 「レッド・オークス」の大人たちはみんなそうですよね。本人たちはしょうもない面もあるけれど、ちゃんと役割は果たそうとしている。あの身勝手なオーナーでさえ、デヴィッドに対してもちゃんと大人として振る舞っている。
 
茅野 ミスティの元カレも、わかりやすくバカっぽいマッチョに描かれてるけど、まだ愛の目線がありませんか?
 
キーツ ミスティにも「優しいところもあるし、歌も書けるし」って言わせてるよね。「レイバーデイ」の回のテニスコーチが自分の趣味とはかけ離れた歌を歌うシーンで「いいね!」って親指立てるとこも良かったね、意外とナイスな面あるんだって。
 
茅野 ちょいちょい好意的な目線で描くシーンが差し込まれてるから、すべてのキャラクターを嫌いになれないんですよね。
 
村山 あのクソみたいなカメラマンですら、クソみたいっていうか実際にクソ野郎なんですけど、やっぱりちゃんと大人な部分が描かれてますよね。
 
茅野 彼はちゃんと経験をしてますからね。デヴィッドよりいろんな経験をした結果としてあのカントリークラブにいる人なんですよね。
 

《「レッド・オークス」は世代間の溝を埋める?》

RO_0183.arw RO_0183.arw村山 まあ、いろんな意味ですごくいい青春ドラマだと思うんですよ。ただ、あまり日本で知られてないのはキャッチーさに欠けるってのはあると思うんです。
 
キーツ 80年代の青春もので主人公が20歳ってあんまりないよね。普通はティーンが主人公だから。
 
村山 確かによく企画会議で「20歳のふわふわしてる主人公のドラマを作りたいんです」って言っても……。
 
茅野 まあ、通りませんよね(笑)。
 
村山 たぶん14歳か17歳にしとけって言われますよね。でもキーツさんが言ってるように「レッド・オークス」は普遍的な青春コメディとして老若男女が共感できる作品になっているから、もっとみんなが観てくれればいいと思うんです。シーズン2もリリースされたこのタイミングにぜひ。
 
茅野 話がちょっと違うかも知れないですけど、80年代が舞台の作品を違う世代に勧めても、80年代のイメージってもう固まってるじゃないですか。そのせいか「とにかく観て!」って言ってもなかなか観てもらえない。私たちの世代の角川映画とかにも今観ても色褪せてないものってあるじゃないですか。それを「いいから観て!」って言ってもなかなか観てくれない。でも観てくれたら「めっちゃよかったです」って言ってくれたりするんですよ。「レッド・オークス」はその溝をいかに埋めるかっていうことを、ちゃんと考えてやっていると感じたんですよね。そこは日本よりも一歩先を行ってる気がして、ちょっと今、ジェラシーを感じてます(笑)。
 
キーツ そうだね。今関あきよし監督の『アイコ十六歳』(83)だって、実はすごく死生観に迫った異色作で、今見直してもまったく色褪せていないのに、世間では時代性プンプンのドジっ子アイドル映画くらいにしか思われていないのがくやしい。
 
茅野 確かにそうですね。
 
キーツ 人にお勧めすると「いやー、なんか不細工な大根足のアイドル映画でしょ」って言われておしまい。なかなか今の人たちは観てくれないものね。
 
村山 じゃあ、いっそシーズン2では角川映画や『アイコ十六歳』のエッセンスもすくい取ってくれていることを期待しましょう(笑)。今日は長時間ありがとうございました!
 
※Amazonプライム・ビデオにて配信中
 
[シーズン1予告編]

 
[視聴リンク]
https://www.amazon.co.jp/dp/B017JGNGOE
 
〇「レッド・オークス」シーズン1 レビュー「“学園青春物”の変わりダネが示す、ジャンル物の可能性 『レッド・オークス』シーズン1」(キーツ)
 
〇「レッド・オークス」シーズン1 レビュー「あえてリミット越えを狙わない僕らの青春」(村山章)

作品データ

製作年:2014~

製作国:アメリカ

言語:英語

原題:Red Oaks

脚本:グレゴリー・ジェイコブズ、ジョー・ガンジェーミ、他

出演:クレイグ・ロバーツ ジェニファー・グレイ リチャード・カインド ポール・ライザー アレクサンドラ・ソーシャ