
ブラックベリー
DVD&動画配信でーた
愛すべきオタク×猛烈ビジネスマンが生み出すスリル満点の風刺劇 『ブラックベリー』
ShortCutsは雑誌「DVD&動画配信でーた」(KADOKAWA)にて執筆陣の持ち回り企画「厳選 動画配信の掘り出しモノ」を連載中。同コーナーのレビュー記事をShortCutsサイトでもご紹介します! 今回は各種配信サービスで配信中のモキュメンタリー映画『ブラックベリー』です。
2025.6.26
2022年、カナダのトロント国際映画祭でちょっとした話題になった作品があった。DCのパロディ映画、その名も『The People’s Joker(原)』。プレミア上映は実施されたものの、翌日権利問題を理由に2回目以降の上映中止がアナウンスされた(お蔵入りかと思われたが、その後2023年12月、無事にアメリカでのリリースが決定した)。
そのニュースを読んでいると、ひとつのコメントが目に付いた。「『Nirvanna the Band the Show』のマット・ジョンソンに弁護士を紹介してもらえばよかったのに」。マット・ジョンソンとは誰だろう。そのライブなんだか番組なんだかよくわからない名前は何だろう。
調べてみると、『Nirvanna the Band the Show(原)』(’16〜’18年)は、「Nirvanna the Band」というふざけた名前のバンドの2人が自分たちを宣伝するためにあれこれ奔走する(が演奏シーンはほとんどない)モキュメンタリードラマ。毎回いろんなシットコムやら『デアデビル』やら映画『ホーム・アローン』やらさまざまな作品のパロディを放り込んでくる、オタクが友達と作ったようなノリでありながらやたらと手の込んだ作品だった。
明らかに予算は小さそうな番組なのにそんなに既存作品の映像や音楽を使ったりロゴを真似たりして大丈夫なのか、大丈夫ならどうやって権利をクリアしているのか、確かに作り手にアドバイスを求めたくなる。
クリエイター兼主演の一人を務めるのが、トロント出身の気鋭の映画監督でもあるマット・ジョンソン。2人の高校生が学校でいじめっ子たちについての映画を作る『The Dirties(原)』(’13年)、アポロ計画のドキュメンタリー撮影クルーとしてCIA職員たちがNASAに潜入する『アバランチ作戦』(’16年)、いずれも彼自身も出演し、パロディやカルチャーネタを多用したモキュメンタリー形式の作品だ。
音楽は『Nirvanna〜』で相棒役を務めたジェイ・マッキャロルが毎回手がけ、『アバランチ作戦』のサンダンス映画祭でのお披露目ではその舞台を利用して同番組の1エピソードを撮影するという飛び技までやってのけた。
監督のほぼ素のようにも見える親しみやすいキャラクターでコメディとしての導入を作りながら、常にオタクの遊び心を忘れず、好きなものへのオマージュやゲリラ的な撮影方法を放り込まずにはいられない。
そして映画になるとドラマとは違い、そんなオタクたちの自由でのびのびとした日々をいつまでも続かせてはくれず、そこに復讐や陰謀といったスリルが絡んでくる。紛れもないオタクとしての自身と仲間たちへの愛情と同時に、そんな自分たちを俯瞰するシニカルな視点も持ち合わせているのが彼の作品の醍醐味だ。
その醍醐味が『ソーシャル・ネットワーク』や『AIR/エア』を思い起こすビジネス狂想曲というジャンルで生かされたのが、第73回ベルリン国際映画祭でお披露目された『ブラックベリー』。携帯端末BlackBerry開発の裏側を描いたスタートアップの栄枯盛衰の物語だ。
ここでもジョンソンは実際の社名や人名を使いながら、実話ベースというには程遠い(らしい)人物像とストーリーを作り上げ、壮大なパロディ作品に仕立てた。
自身が演じるのは、リサーチ・イン・モーション(RIM)の共同創業者で毎週末の社内のムービーナイトを生き甲斐にするダグラス・フレギン。主演のジェイ・バルチェル演じるCEOのマイク・ラザリディスとは学生時代からの親友だが、そこに野心むき出しのビジネスマン、ジム・バルシリー(グレン・ハワートン)が加わることで、彼らは一気に市場競争にのまれていく。
新しい文化を作っていることを自負した勢いで突っ走る集団の全能感と、誰もが結末を知っているからこそ生まれる不穏さと悲哀をぜひ味わってほしい。
『ブラックベリー』
各種配信サービスで配信中
内容・あらすじ
2007年のiPhone登場まで、欧米を中心に圧倒的な市場シェアを誇っていたカナダ・RIM社の携帯端末BlackBerry。同社の急成長と衰退までを、経営者3人の動きを軸に描く。