アンブレイカブル・キミー・シュミット
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Netflixのドラマ『アンブレイカブル・キミー・シュミット』がシーズン4で完結した(編集部注:記事執筆は2019年3月)。シーズン1のスタートは2015年だが、私は少し遅れてこのコメディにハマって、繰り返し観た。昨年時点でシーズン4の途中まで配信が済んでいたが’19年になって残り7話が配信され、物語は無事大団円を迎えたのだった。
主人公のキミー・シュミットは、15歳の時にカルト教団の教祖である不審な男に誘拐され、それから15年間の長きにわたり、地下に幽閉されていた女性たちのうちのひとり。第1話は救助隊が地下室の天井を破って、彼女らを救出するシーンから始まる(このオープニングの5分だけでも観てほしい。ちょっと驚いたので)。
久しぶりの自由を獲得した彼女はTV番組に出演して注目を浴びたのち、故郷のインディアナ州を離れてニューヨークで暮らすことを決意、ダウンタウンの安アパートを見つけて入居することになる。
転がり込んだ部屋のルームメイトはゲイの黒人男性タイタス。セレブを夢見て『キャッツ』のオーディションを受けるべくニューヨークにやって来た俳優志望の青年である。だが生活は夢にはほど遠く、家賃を滞納してうだつの上がらない毎日を送っている。
大家のリリアンは、ギャングの犯罪が横行した、治安は悪いが活気のあった古き良き70年代のニューヨークの復興を願い、脱臭された現在のニューヨーカーを「サブカル野郎ども」と蔑むエキセントリック老婆。キミーが下働きとして最初に勤めるリッチな家庭の主婦ジャクリーンは有閑マダムの座に治まっているものの、もはや夫の愛は得られず、その生活に疑問を感じている…。
主要キャストはこの4人。こう書くと、それぞれに悩みを抱えたニューヨーカーたちの人間模様を描いた群像劇のようだが、さにあらず。腰の抜けるようなくだらないギャグのオンパレードで、ストーリーはそのギャグの磁力に歪まされて、思ってもみない方向に進んでいくのである。
地下に15年も監禁されていたキミーはその不幸にめげず、屈託が一切なく、とにかく明るい。失われた15年を取り戻すべく、齢30を超えてさまざまなことにチャレンジするが、知識や教養が中学生のままで止まっているので、有体に言ってバカである。リュックサックにお菓子を詰め込み、子供が履くような光るローラーシューズを嬉々として乗り回す。
同居人のタイタスも、黒人差別、ゲイ差別、貧困といった二重苦三重苦に抗うでもなく諦めるでもなく、無駄に美声を披露したり、拾ったピザを食べたりしながらそれなりに楽しく生活している。
リリアンもジャクリーンも、彼らを囲むニューヨークの人々もみなちょっとずつバカで、まるでアメリカ人の演ずる『天才バカボン』の登場人物のようだ。つまりこのドラマは、アメリカ的な問題を盛り込みながらも、全てをポジティブに反転させた、バカが暮らすユートピアの話なのだ。
繰り出されるギャグは、論理が飛躍しすぎていたり、英語の言葉遊びも頻出するので、日本人が観てもよく分からないことも多々ある。自分は吹替版と字幕版を代わる代わる繰り返し観て、少しでもこのバカが寄って暮らす明るいニューヨークに親しもうと努力した。
シーズン4に向かって4人の運命は目まぐるしく変わり、突飛な展開に振り回された結果、それなりの幸せをつかんでいく。自分がいちばん好きな回はシーズン3の第10話。「客以外使用禁止」と書かれたコンビニのトイレをなんとかタダで使おうと、キミーとタイタスがあの手この手で奮闘する(このエピソードだけでもバカなドラマだって分かるでしょう?)。強面のコンビニ店長役はレイ・リオッタで、楽しげに演じていて微笑ましい。
こういうベタなコントが片隅で繰り広げられている「遠い、実在しないニューヨーク」。私はそれに、強い憧れを抱くのである。
※Netflixオリジナルシリーズ『アンブレイカブル・キミー・シュミット』シーズン1〜4独占配信中
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80025384
*本レビューは雑誌「DVD&動画配信でーた」(KADOKAWA)2019年4月号の
「厳選 動画配信の掘り出しモノ」コーナーに掲載された記事の再掲となります。
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内容・あらすじ
カルト教団に誘拐され、15年間幽閉されて育ったキミーがニューヨークに移り住み、持ち前の前向きさで人生をやり直そうとするコメディ・ドラマ。人気コメディ女優のティナ・フェイが製作総指揮と脚本を担当。