マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)

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人生と家族の在り方をペシミズムとユーモアで炙り出す。『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』

壊れた家族像と迷える大人の姿を描き続けてきたノア・バームバック監督が、父親の老いと向き合う三兄姉弟の右往左往を描き出す。アダム・サンドラー&ベン・スティラーというアメリカンコメディ界の二大巨頭が悩み多き中年像を切々と演じる、シニカルだけれど温かいヒューマンコメディ。

 2018.1.16

アダム・サンドラーとベン・スティラー。バカげたコメディを得意とする2人だが、彼らのペーソスに満ちたマジ芝居も大好きだ。サンドラーなら『パンチドランク・ラブ』(2002)や『スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと』(2004)。スティラーなら『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)や『グリーンバーグ』(2010/別タイトル『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』 )。挙げたタイトルの監督がポール・トーマス・アンダーソン、ジェームズ・L・ブルックス、ウェス・アンダーソンにノア・バームバックと名匠ばかりなのも2人が名優である証だろう。
 
そして『グリーンバーグ』以降、スティラーとやたらとコラボしているノア・バームバックが、アダム・サンドラーとスティラーの本格共演を実現させたのがNetflixオリジナル作品『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』だ。スティラーはサンドラー主演の『俺は飛ばし屋/プロゴルファー・ギル』(1996)にカメオ出演したことがあるが、本格的な共演はこれが初めてとなる。
 
いや、『ファニー・ピープル』(2009/別タイトル『素敵な人生の終わり方』)にもわずかだが変則的な共演シーンがあった。劇中で、無名時代のサンドラーがイタズラ電話をかけて遊んでいる姿を撮ったホームビデオ(本物)が使われていて、なんとその場に若き日のスティラーが居合わせていたのである。アメリカのコメディを背負ってきたこの2人に無名時代から親交があり、50代にさしかかった今、人生の苦みを噛み締めるような本作で兄弟役を演じている姿はなかなかに感慨深い。
 
監督のバームバックに話を移そう。別居した夫婦の諍いをダイオウイカとクジラの戦いに準えた『イカとクジラ』(2005)は、自身の少年時代をモチーフにした半自伝的作品だった。そして『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』は、まるで『イカとクジラ』の子供たちが大人になった物語のように思えるのだ。
 
サンドラー扮する兄ダニーとスティラー演じる弟マシューは、身勝手な父親に振り回されて辟易しているにも拘わらず、厄介な父親に尽くさずにいられない。それぞれが父親に充分に愛されなかったという欠落感を抱えて、親の愛情を奪い合うように生きてきたからだ。ダニーとマシューが異母兄弟であること、さらにジーンという女兄弟が加わることなど『イカとクジラ』とまったく同じ構図ではないが、欠損のある家庭がもたらすトラウマや疑似家族といったテーマはバームバックが長年追及し続けてきたもの。現在48歳のバームバックによる“人生の憂鬱”の最新報告が『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』だと言っていい。
 
この物語中でのモンスター的存在は、ダスティン・ホフマン扮する父親のハロルド・マイヤーウィッツ。尊大で自己中心的で、世をすねたところがある偏屈者の芸術家だ。子供たちに対してもえこひいきを隠そうともせず、ダニーやマシューのコンプレックスはこじれていくばかり。
 
愛情深く優しいが自立できないダニー。ビジネスに成功しても疎外感を拭うことができないマシュー。2人ともが子供がいて離婚している設定であることも、ねじれた親子関係が次世代にまで引き継がれるかも知れないと観る者を不安にさせる。とはいえ本作はハロルドを毒父として糾弾しているわけでもない。ただ家庭環境がもたらす影響の大きさを、悲喜こもごも織り交ぜながら淡々と描き出している。
 
いい歳をして「親から愛されていない」ともがくダニーやマシューを叱咤したくなる人もいるだろう。だがアレハンドロ・ホドロフスキーなんて80歳を超えてなお「高圧的だった父親との和解」を模索する映画を作り続けている。マイヤーウィッツ家でも父ハロルドが子供たちに与えた傷はとてつもなく深い。実はそれを一番象徴しているのが長女のジーンで、乏しげな表情に重層的な感情を押し込めた演技が素晴らしい。本作のMVPは、実はジーン役のエリザベス・マーヴェルかも知れない。
  
当のマーヴェルはジーンを演じるにあたり『ゴッドファーザー』(1972)と『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974)でジョン・カザールが演じた次兄フレドを念頭に置いていたそうだ。マフィアの家に生まれ、気は優しいが心が弱く、兄にも弟にもへつらって生きたフレドと、心の傷を外に出すことなく超然としているジーンは一見真逆に見える。
 
しかし「この家族の中にいる私のつらさはあんたたちにはわからない」と悲嘆でも抗議でもなく語るジーンの秘めた哀しみを思うと、傷だらけのフレドとも重なって胸が苦しくなる。映画には人生の真理に触れる「笑えないコメディ」とでも呼ぶべき名ジャンルがあって、本作がその優れた一本であることは間違いないように思えるのである。
 
※Netflixオリジナル「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」独占配信中
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80174434

内容・あらすじ

芸術家ハロルドの長男ダニー、長女のジーン、そして腹違いの次男マシューは、高圧的でわがままな父親に振り回されて育った。離婚したダニーは父ハロルドの家に身を寄せ、無神経さにイラつきながらもつい高齢の父の世話を焼いてしまう。一方、遠い西海岸でビジネスに成功したマシューはハロルドのお気に入りだが、父に認められていないという不満を克服できていないでいた。ある日ハロルドが倒れ、三兄姉弟は父親の代理として展覧会のオープニングに出席することに……。

作品データ

製作年:2017年

製作国:アメリカ

言語:英語

時間:112min

原題:The Meyerowitz Stories (New and Selected)

監督:ノア・バームバック

脚本:ノア・バームバック

出演:アダム・サンドラー ベン・スティラー ダスティン・ホフマン エリザベス・マーヴェル グレイス・ヴァン・パタン エマ・トンプソン キャンディス・バーゲン レベッカ・ミラー