オザークへようこそ

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激しくぶつかり合う、分断された人々『オザークへようこそ』

コメディ・ドラマ『ブル~ス一家は大暴走!』などで知られる俳優ジェイソン・べイトマンが製作総指揮・監督・主演を務めるNetflixオリジナルドラマ。従来の犯罪ものとは一線を画す、その独創性とは……?

 2017.10.28

ごく平凡に暮らしている人々が、ある日を境に犯罪と暴力の世界に深く関わることになるというプロットは『ブレイキング・バッド』や『ファーゴ』をはじめ、近年のアメリカのドラマではもはや定番のものだ。Netflixオリジナル作品『オザークへようこそ』も大きく分けるなら、その系統に入るドラマと言っていい。だが、ショッキングな「死」がいきなり連発される1話に始まり、2話、3話と観進めていくうち、このドラマが従来の「凡人巻き込まれ型」犯罪ものとはあらゆる意味で一線を画した、新鮮で刺激的な作品であることに気がつくはずだ。
 
主人公はファイナンシャル・アドバイザーを営む家族持ちの中年男マーティン(ジェイソン・べイトマン)。相棒と共に真っ当な事業に勤しんでいる彼だが、同時にメキシコの麻薬カルテルの資金洗浄という危ない橋も渡っている。そんなある晩、相棒がカルテルの金を盗んでいた事実が発覚。窮地に立たされたマーティンは、その場で思いついた、リゾート地オザーク湖を舞台にした新たなマネー・ロンダリング計画をカルテルに申し出るのだった……。
 
原作・製作総指揮を務め、今作の実質的クリエイティブを担っているのは『ザ・コンサルタント』の脚本家として知られるビル・ドゥビューク。「資金洗浄」というユニークな題材を扱っている今作だが、予想に反して、その裏側やノウハウといった一見興味深そうな要素はさほど描かれるわけではない。ドラマの焦点は犯罪そのものではなく、違法な世界に触れることによってあぶり出される登場人物たちの本性や、ぶつかり合って激しく変化していく彼らの関係性の方にある。
 
『ブレイキング・バッド』と大きく印象が異なる点を挙げるなら、まずは主人公マーティンのキャラクター造形に目が行くだろう。『ブレイキング・バッド』の主人公ミスター・ホワイトが、犯罪者でありながら善と悪との間で葛藤する、ある意味視聴者の共感を得やすい人物として描かれるのに対し、マーティンは少し違う。資金洗浄という間接的な方法で悪事に関わっているせいか自分が犯罪者であるという自覚が弱く、また人間らしい感情の揺れもあまり見せることなく、窮地にあってもその場その場を持ち前のプレゼン能力(出まかせとも言う)で乗り切っていく、つかみどころのない男なのだ。「なににおいてもどこか他人事」のこの人物だが、ダイレクトな人間関係から遠ざかり、合理性に毒された、いわば現代人の典型のようにも見えてくるから面白い。 
 
共感しにくいのは、主人公だけではない。その妻ウェンディ(ローラ・リニー)は、物語の冒頭から夫と子供たちを裏切り不倫を続ける悪妻として登場するし、ふたりの子供たちにしても、親に悪態をつき、期待に反する行動ばかりとる厄介な存在である。そんな家族たちは、はじめは互いに嘘の仮面をつけて向き合っているが、今作では犯罪や不貞がいつバレるのか? という犯罪ものお馴染みのサスペンスが、なんと序盤のエピソードで早々に捨てられてしまう。マーティンは自分が犯罪に関わっていること、自分たちが危険にさらされていることを妻や子供たちにあっさり白状するし、夫婦は不倫の果てのリセットされた状態から、悪事を媒介にした新たな関係性をもう一度結び直すことになる。この点もまた、主人公の正体の発覚がドラマの核心であった『ブレイキング・バッド』とは、まったく違うことが分かる。 
 
『オザークへようこそ』の本質をひとことで表すなら、「分断された人々の物語」というフレーズがしっくりくるのではないだろうか。家族や職場といった共同体に一応は属しながらも、その精神や心は完全に孤立している人々。主人公一家以外にも、迷走し、過ちを犯し、救いを求め続ける魅力的な人物たちが多く登場する。特に、サイコパス的な異常さでカルテルを執拗に追うゲイのFBI捜査官ロイ(ジェイソン・バトラー・ハーナー)と、愚かで貧しい家族に囲まれながらも悪知恵を働かせて立ち回る地元娘ルース(ジュリア・ガーナー)のふたりは、目が離せなくなる吸引力を発していて素晴らしい。 
 
前述のように、資金洗浄そのもの、またそれがいつ明るみに出るかが本筋ではないので、物語がどこへ向かうのかは観ていてもまったく予想がつかない。だが、第1話以前の人物たちの過去を、複雑かつ精巧に時制を入れ替えながら描くエピソード(第8話)を観れば、このドラマが行動に伴う結果、つまりは「因果」のようなものを扱おうとしていることが見えてくる。オザークという、憩いのリゾート地でありながらどこかこの世の果てのようなムードを漂わせた舞台と共に、やってしまったことへの報いとそれでも生きる人間のしぶとさを描く、恐ろしくもワクワクさせる必見の一作である。 
 
※Netflixにて独占配信中
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80117552

作品データ

製作年:2017

製作国:アメリカ

原題:OZARK

原作:ビル・ドゥビューク、マイク・ウィリアムズ

監督:ジェイソン・べイトマンほか

出演:ジェイソン・べイトマン、ローラ・リニー、ジェイソン・バトラー・ハーナー、ジュリア・ガーナー、ソフィア・フブリッツ、スカイラー・ゲルトナー