手遅れの過去

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35mmフィルムの限界に迫る!? 驚異の長回しで魅せるメランコリックな探偵物語 『手遅れの過去(TOO LATE)』

ワンシーンワンカットのフィルム撮影。1リールの限界である20分間で描かれる5編のエピソード。そこから浮かび上がるのは、ストリッパー殺害事件を追う私立探偵の喪失感と哀愁だった。ハードボイルドというジャンルへの憧憬を才気あふれる映像スタイルに詰め込んだ、新進監督デニス・ホークの長編デビュー作。

 2017.9.13

TOO_LATE_poster日本未公開のインディーズ映画だが、もしどこかの配給会社がこの作品を買い付けていても、日本の映画館で上映するのは難しかっただろう。なぜなら本作はデジタル化に押されて消滅しつつある“フィルム上映”に限るというのが劇場公開の際の基本条件だから。最近ではクリストファー・ノーランがフィルム擁護の急先鋒に立っているが、ほとんど無名の新人監督デニス・ホークもまた、長編デビュー作『手遅れの過去』を35mmフィルムにこだわりぬいて制作した。
 
本作におけるフィルムへのこだわりはある意味でノーランすらも超えている。ホーク監督は『ロング・グッドバイ』(1973)や『チャイナタウン』(1975)の系統に連なるロサンゼルスを舞台にした探偵ハードボイルドを撮るにあたり、どのシーンも35㎜フィルムで撮影し、しかも2000フィートのフィルム1リール分(約22分)のワンカットで押し切ることに決めたのだ。100分ほどの映画でシーンはわずかに5つ。そのすべてをワンカットで撮り切り、デジタルの手を加えることなく35mmフィルムで完成プリントを作ったのである。
 
この試みがフィルムというメディアを延命させて再興を図る目的だとしたら、それはもう「手遅れ」というしかない。手間もかかれば経費もかさむフィルム撮影やフィルム上映が減ってゆくのは必然で、ノーランのような人気監督や予算が潤沢な大作でなければおいそれと手が出せない贅沢品。そんな状況下で本作のような低予算のフィルム映画(そんな言葉はないが)を実現させたことは、ドン・キホーテが風車に向かって戦いを挑むがごとき蛮勇でもある。コダックフィルムは本作のためにフィルムの値引きを申し出たというが、それでも製作費的に手が出せず、大作映画の現場で余った35mmのストックを安く払い下げてもらったらしい。
 

22分間ワンテイクが生み出す一発勝負の緊張感

それでも本作が35mmフィルムにこだわったのは、ノスタルジックで気怠いフィルムノワールという古き良きジャンルの質感を求めてのことであり、また、35mmフィルム撮影ゆえの制約を逆手に取ってエキサイティングな映画体験を提供しようという野心ゆえだろう。
 
例外的にスプリットスクリーンや数カットの編集の切り替えはあるものの、基本的にワンシーンワンカットが貫かれている。つまり約20分続く各シーンでは役者の演技もスタッフの動きも緻密に振り付けられ、少しでも失敗したら最初からやり直す、緊張感に満ちた一発勝負で作られているのだ。
 
面白いのは主演のジョン・ホークスが、あるシーンの終盤でギターの弾き語りを披露するシーンについて「10テイクほど取って歌と演奏を一度も失敗しなかった」と自画自賛していること。とあるストリップクラブから始まり、軽い乱闘を繰り広げて隣のライブハウスに移動し、ヒロインとダンスをするところまでで約17分。この後にギターを一音でも引き損ねたらそのテイクはNGになるわけで、シーンの最後にギターを弾くプレッシャーがいかほどのものかをホークは語っているのである。それでいて、誰ひとりとして段取りを感じさせないアンサンブル演技のみごとさとドラマの説得力に惹き込まれずにいられない。
 
(ちなみにジョン・ホークスは『君とボクの虹色の世界』(2005)や『ウィンターズ・ボーン』(2010)に出演していた名優で、ミュージシャンとしても活躍。カルト教団のリーダーを演じた『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(2011)でもギターと歌声を披露している)
 
とはいえ日本でこの映画が観られるのはデジタル配信であるNetflix。フィルム撮影ならではの質感は残っているが、監督が最初に意図したフィルム上映で観ることができないのは残念ではある。しかし本作の魅力は、ワンシーンワンカットのフィルム撮影というギミックだけでは終わらない。むしろ名優たちの味わい深いアンサンブルと変化に富んだカメラワークに引き込まれて、ワンシーンワンカットの長回しであることを途中で忘れてしまう観客も多いのではないか。
 

事件は開始40分で解決!実はメランコリックなメロドラマ

本作の主人公はジョン・ホークス演じるよれよれの中年私立探偵メル・サムソン。彼に助けを求めようとした若い女性が殺害され、サムソンが事件の究明と復讐に乗り出すという典型的なハードボイルドミステリーの形式を借りている。しかし驚いたことに、なんと5シーンしかない2シーン目で事件は解決してしまうのだ。この2シーン目、キーとなる女性キャラがほとんど下半身丸出して歩き回っているというビジュアル的なインパクトも含め、独立した短編映画だとしてもやたらと面白い。
 
しかし事件が解決しても、まだ映画全体の折り返し地点にすら立っていない。そこから先はどうなるのかと思ったら、時系列を前後しながら「事件に関わった者たちの人生が交錯する群像メロドラマ」という正体を露わにし始める。やがて5つのエピソードが互いを補完し合い、ラストにはすべてのピースがピタリとハマるだけでなく、描かれなかった行間が余韻として膨らんでいくのである。
 
時系列を組み合わせる犯罪ミステリーであり、ストーリーよりも癖の強いキャラクター同士の会話劇がメインであることから、クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』(1994)を引き合いに出す論調も多い。きっと影響は受けているだろうし、フィルムや長回しへのこだわりや、ロバート・フォスターやシドニー・タミーア・ポアチエが出演していることもタランティーノ映画を想起させる一因ではある。
 
しかしデニス・ホーク監督が描く世界観はタランティーノとはまったく別種のもの。『手遅れの過去』は孤独な男女が身を寄せ合おうとするメランコリックなラブストーリーであり、とことん人情派でセンチメンタルな探偵像にこそ作品の真髄がある。閑散としたストリップ小屋にカウボーイ・ジャンキーズの「泣きたいほどの淋しさだ(I’m So Lonesome That I Could Cry)」のカバーが流れるどうしようもないロマンティシズムに身を委ねたい人におすすめしたい、深夜の時間帯がよく似合う逸品である。
 
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※Netflixにて配信中
 
【予告編】

TOO LATE (Official Trailer) from TOO LATE on Vimeo.

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80062698

内容・あらすじ

ロサンゼルスの私立探偵メル・サムソンに、数年前に一度会っただけの女性ドロシー・マーラーから助けを求める電話がかかってくる。駆けつけたサムソンが目にしたものは? そしてドロシーが握る秘密とは? ワンショットで撮られた5つのエピソードが交錯するハードボイルドラブストーリー。

作品データ

製作年:2015

製作国:アメリカ

言語:英語

時間:107min

原題:TOO LATE

監督:デニス・ホーク

脚本:デニス・ホーク

出演:ジョン・ホークス ヴェイル・ブルーム ジョアンナ・キャシディ ジェフ・フェイヒー ロバート・フォスター ディーチェン・ラックマン シドニー・タミーア・ポワチエ

オフィシャルサイト