パブロ・エスコバル - 悪魔に守られた男

村山章の《今日のエスコバル》

第5回:エスコバル忍法、まきびしの術!

悪名高き“史上最悪の麻薬王”パブロ・エスコバル。『ナルコス』『エスコバル/楽園の掟』など映像作品でもひっぱりだこだが、母国コロンビアがなんと全74話もあるドラマシリーズを作っていた! しかし1日1話ペースでふた月半、週一だったら1年半かかる大ボリュームを一体誰が観るのというのか? オレだ!総尺53時間9分コンプリートへのチャレンジを逐次報告します!

 2016.9.28

Netflixのオリジナルシリーズ『ナルコス』のシーズン2が始まったので観てみたら、ヴァグネル・モウラ演じるパブロ・エスコバルがやっぱりカッコいい。もう『ナルコス』では死の前年なので髪に白いものも目立っているが、それもまた渋味と凄味になっている。
 
ですが、なにか違和感があるなと思いながら観ていて気がついた。コロンビア版「エスコバル」のひょうきんなオッサン感に慣れて、純粋にカッコよくてハンサムなエスコバルでは物足りなくなってしまったのだ。恐るべしコロンビア版。なかなか毒性が強い。
 
【第五話:エスコバル、レーサーになる】
 
さて、第五話である。まだまだ序盤戦のはずだが今回もエピソードがてんこ盛り。この調子でずっと続けるつもりなのか。どんだけ濃厚な人生なのか、エスコバルは。
 
前回は乱心した潜入捜査官が弟ジェルソンのジープをカージャック、ジェルソンの彼女もろとも崖から転落する衝撃のラストだったが、やはりヤングカップルはお亡くなりになりエスコバル一家は悲しみに包まれる。葬儀にはご無沙汰感のあるパパコバルの姿も。
 
特に目撃者もいなかったと思うのだが、捜査官の正体や丘の上でジェルソンと口論していたことなど、何が起きたかをほとんど把握しているのはさすがエスコバル。捜査官だけは大怪我をしつつも生き残り、意識不明で入院しているところをチリに命じて暗殺する。すっかりチリは汚れ仕事担当だが、今回エスコバルの妻パティの御用掛も拝命することに。
 
愛する弟を警察官に殺され、ここから壮絶な復讐劇に突入するのか! と気分が上がったがまた時間が飛んだ。それもテロップが「しばらくして・・・」って杜撰だな! しかもエスコバル、のん気にアマチュアのカーレース大会に出場中。先行する車輌を追い抜けないと思ったエスコバルがすかさずトランシーバーで相棒ゴンサロに連絡する。
 
「今だゴンサロ!まきびしの出番だ!」
 
ゴンサロと一緒に待機していた兄ぺルーチェは「こんなのインチキだ」と突っ込むが、まきびし作戦で先行車はパンク。急いで路上を掃除して「かっ飛ばせパブロ!」と嬉しそうなゴンサロの無邪気さよ。首尾よくレースは優勝、笑顔でシャンパンシャワーを満喫するエスコバル。しかしラジオ取材が来ていないことにご不満の様子。そうか、膨れ上がる名声への欲求を示すためのシーンだったのか、わかりました!
 
コカイン商売は順調そのもので、地元新聞では「常時護衛つきのビジネスマンで、寛大なで陽気な人物」と名士扱いされるように。前回からのハードな流れは脇に置き、バイクでツーリングを楽しむなどのんびりムードが漂う。出先で気に入った広大な土地を札束で頬を叩くような強引さで買い取り、妻パティに動物園をプレゼントするとか成金のレベルが尋常じゃない。
 
ただ、あちこちでトラブルの火種もくすぶり始める。パティの兄のファビオはエスコバルのビジネスを手伝ううちにコカインを常用するようになり情緒不安定気味。実際にエスコバルはコカインを売りまくりながらもコカインを嫌い、もっぱらマリファナを嗜んだ。ファビオに対しても「コカインは身を亡ぼすぞ、これはアメリカ人のための薬物で、俺たちには必要ない」とお説教。家族への忠誠以外にエスコバルがモラルを語るのは珍しい。
 
いよいよコカインビジネスに参加することになったぺルーチェがお人よしで弱腰なこともエスコバルは気に食わないし、パティはパティでチリの姉で娼婦のミレヤの存在を知り、夫の浮気相手だと直感する。悩むパティに相談されたママコバルは「男ってのはみんな浮気者、なにもしないで口をつぐむのよ」と久々に人生訓を披露。どんどん存在感を失っていくパパコバルも昔は女泣かせだったんでしょうなあ。
 
今回の大きな転機はふたつ。コロンビアとアメリカの間に犯罪者引き渡し条約が締結されたこと。ことの重大さにエスコバルはいち早く気づく。「これは経済と政治の問題だ」と語るエスコバルのセリフの裏には、超大国アメリカが南米の国々を裏から操作し搾取してきた歴史的背景が横たわっている。麻薬王のエスコバルが国民の支持を集めて英雄視された理由は、地元の経済や発展に貢献したというだけでなく、大国アメリカに牙をむいた人物だったからではないか。コロンビア製作である本シリーズが、アメリカがラテンアメリカに及ぼした功罪にどう踏み込むかにも注目したい。
 
状況を重く見たエスコバルは世界に広がった麻薬カルテルの幹部メンバー全員参加の一大会議を招集する。ついにエスコバルは“ゴッドマザー”グラシエラまでマイアミから呼び出す大物になったか。1980年、大きく歴史が動き出す予感と、コロンビア政府転覆を狙う極左ゲリラ組織のリーダーとの面会をもって第五話は終了。ゲリラとの接近がどんなとんでもない事件を引き起こすかは『ナルコス』シーズン1を観ている人はご存じでしょうが、こちらではどう描かれますことやら。
 
 
スクリーンショット (157)※麻薬王が犯罪を指示した決定的瞬間
 
 
 
 
 
 
 
※連載記事一覧はこちらから
http://www.shortcuts.site/column/todaysescobar

作品データ

製作年:2012

製作国:コロンビア

言語:スペイン語

原題:Pablo Escobar: El Patrón del Mal