マッド・ドッグス

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中年男たちが異国の地で七転八倒。悪夢が悪夢を呼ぶ“大人の修学旅行” 『マッド・ドッグス』

英国BBC制作のドラマ『マッドドッグ マジョルカの罠』を米Amazonスタジオがリメイクした『マッド・ドッグス』。南の楽園ベリーズを舞台に、平凡な中年男たちが犯罪に巻き込まれていく、息もつかせぬトラベル・クライム・サスペンスだ。

 2016.11.15

映画には「欧米人の旅行者が、旅先の異国で酷い目に遭う」というジャンル(?)がある。有名なところでは、ロマン・ポランスキー監督『フランティック』や、アラン・パーカー監督『ミッドナイト・エクスプレス』。さらに『ホステル』シリーズに連なるB級・C級のサスペンス、ホラー系においては、もはやお馴染みのネタと言っていい。 
 
さて、映画作品ならば旅行者たちの受難も2時間程度で済むところだが、これが連続ドラマとなるとそうはいかない。Amazonスタジオ制作のオリジナルドラマ『マッド・ドッグス』では、不運なツーリストたちが全10話=約8時間にわたって悪夢の中を延々と彷徨うはめになる。単純に時間が長い分、観ているこちらも見知らぬ土地でのいつ果てるとも知れない地獄に同行しているような気分になるのだ。 
 
大学時代の旧友4人は、経済的に成功したもうひとりの親友から、彼の豪邸が建つカリブ海の国ベリーズに招待される。束の間、再会を喜ぶ中年男5人だったが、早くも第1話の終盤で事態は急変する……。
 
今作はストーリーが進むにつれ意外な事実が明らかになるという、どんでん返し型のミステリーではない。むしろゆっくりと事件の真相を推理する暇など与えてもらえないほど次々と起きる不測の事態に、登場人物同様、観る我々の方も驚き、焦り、絶望するはめになる体感型の作品だ。寿命が縮むような場面はいくつもあるが、特に、数々のトラブルに巻き込まれた後、主人公らがベリーズの闇社会を支配する黒幕とついに対面するシーンの恐ろしさは格別である。 
 
一方、デヴィッド・リンチ作品を連想するような奇怪なイメージにも注目したい。悪夢を告げる最初の使者として登場するのが、作品を象徴するキャラクターとも言える「猫のかぶりものをした黒スーツの小男」で、なぜ猫なのか? がさっぱり分からないだけに非常に不気味。ほかにも殺してしまった人物が精霊(?)となって唐突に現れたりと、怖さと同時にどこか笑ってしまうような黒いユーモアが見え隠れする。 
 
第1話で、あることから険悪なムードとなった主人公たちが食卓を囲む場面でこんなことが起こる。 
 
4人の友人たちを次々と罵倒していく成功者マイロ(ビリー・ゼイン)。「お前ら、セックスに劣等感があるんだろ」「俺は金持ちになったがお前らは?」「田舎に引っ込んで何の変化もない毎日を過ごせ」「ショボい世界で思いあがってる。それがお前の人生だ」「お前は負け犬だ」「お前の人生は偽りだらけ」「人生が失敗したって事実に直面できてないんだよ!」。あまりに酷い罵詈雑言だが、言われた4人はムッとするものの正面から言い返すことが出来ない。そして、唐突に惨劇は起きる……。
 
『マッド・ドッグス』の核となるテーマは、このシーンに凝縮されている。40代後半と思しき主人公たちは、いずれも人生の後半戦に差し掛かっている年代だ。日々の生活をなんとかやりくりしているが、同時にこんなはずではなかったという後悔や展望なき未来に心を支配されている。マイロの罵倒に反論し切れないのも、彼の言うことが客観的に見ればいちいち本当のことだから。いちばん言われたくないことを正面切って突き付けられた彼らは茫然とするしかない。 
 
その後の地獄めぐりの遠因となるのも、彼ら自身の判断ミス、軽率さ、油断、楽観的観測などによるもので、つまりは主人公たちがこれまで生きてきた自分たち自身の愚かさに復讐されているようにも見える。そこに単なる巻き込まれ型サスペンスとは違う、独自の面白さがある。無理やりジャンル名を付けるなら、ミドルエイジ・クライシス・サスペンスとでもいえばしっくりくるだろうか。 
 
蛇足だが、劇中のセリフの中には、例えば「夫にとって妻を取り合う最大のライバルは子供だ」みたいな「中年あるある名言集」も多数。誰が観ても続きがすぐに観たくなるドラマだが、中高年男性の方は、特に他人事とは思えないだろう。
 
※Amazonプライムビデオで配信中
 
[予告編]

 
[視聴リンク]
https://www.amazon.co.jp/dp/B01CTGTIK0/

内容・あらすじ

大学時代からの旧友である4人の男たちがバカンス先で悪質な罠にはまり、犯罪に巻き込まれていくクライム・サスペンス。休暇を共に過ごすため、友人の所有するベリーズの豪華な屋敷で再会した中年男たち。だが、次々に予測不可能な事件が勃発し、彼らは窮地に陥っていく。製作総指揮は『ザ・シールド ~ルール無用の警察バッジ~』のショーン・ライアンら。

作品データ

製作年:2015

製作国:アメリカ

言語:英語

原題:MAD DOGS

監督:チャールズ・マクドゥガルほか

脚本:クリス・コール、ショーン・ライアンほか

出演:ベン・チャップリン、マイケル・インペリオリ、ロマニー・マルコ、スティーヴ・ザーン、ビリー・ゼイン、フィル・デイヴィス